択捉島にゴルフと温泉も楽しめるスキーリゾート建設?! 「また、いつものおとぎ話でしょ」と住民は冷ややかに見ている

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エトロフ・リゾートの構想図
 クリル諸島の南部にある択捉島では「優先的社会経済発展区域」(TOR特区)の枠組みを活用して約240億ルーブルをかけてスキーリゾートの建設が計画されている。遠い島、択捉島–容易に訪れることが出来ない、険しくて美しい自然の島は、観光客に身近なリゾートになるのだろうか。(ski.ru 2020/11/17)

 山岳リゾート「エトロフ・リゾート」は島の中心地クリリスク(紗那)から32km離れたバランスキー火山(指臼山)の麓に造成される。大規模なスキー場(13kmのスロープ、2台のケーブルカーなど)に加えて、設備が整った温泉施設ができる。間欠泉の谷、噴気孔のフィールド、火山の温泉、釣りやサーフィンエリア、そしてゴルフコースも。

 最寄りのクリリスクは島で唯一の町だが、観光客のために快適で質の高い宿泊施設を提供できない。このため、バランスキー火山のキピュシュチャヤ川沿いに700室のホテルが建設される。開発企業によると、ホテルをはじめとした観光インフラの営業・保守のためには島の人口の6分の1のスタッフが必要になるという。 

 「島の人口は6,500人で、4から5つ星のホテル700室を提供するには1部屋につき、1名の従業員が必要だ。さらにレストランもあり、住民はそこでも働くことができる。島の雇用に関する問題は確実に解決されるだろう」と、サハリン州の投資政策大臣ドミトリー・リスネフスキーは言う。建設予定地は地元の起業家が観光事業に参入することも可能だ。

 観光プロジェクトの中で、最も重要なのは太平洋側のサドコ湾に桟橋を建設することだ。これにより、クルーズ船が島に接岸することが可能になる。アジアからアラスカへ、クリル諸島に沿って航行するクルーズ客船の乗客数は年間100万人を数える。これらの乗客はクリル諸島でお金を使うことが出来ない。

 「どのクルーズ船もクリル諸島に停泊しない。観光客はそこでお金を使わないし、島の経済に貢献することもない。インフラが整備されていなからだ。クルーズ船が停泊てきる水深をもった岸壁がない。たとえ観光客が上陸したとしても、彼らには行くところがない。この問題はエトロフ・リゾートによって解決されるだろう」とリスネフスキーは言った。

 現在、プロジェクトではリゾートを訪れる観光客を年間6万人と推定している。大臣によると、その半分3万人はクルーズ船の観光客を想定している。

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フメルニツキー火山(散布山)の噴火で流れた溶岩が固まったヤンキートの海岸

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バランスキー火山(指臼山)の麓に流れる沸騰する川(温泉川)

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フメルニツキー火山

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白い崖(ビラ海岸)
 

 「サハリンと択捉島の航空運賃は往復で24,000ルーブル。魅力的な自然を考えると高くは内料金だ」と大臣。リゾートの枠組みの中で、白い崖や火山の間欠泉など景観を楽しむルートを整備する。「ここは最も美しい島の1つだ。自然にあふれている。それらの自然が何百キロも離れているわけではなく、コンパクトに配置されている。しかし、アプローチするのが難しい自然の中にある。現状で択捉島を観光しようとすれば、あなたは、どんな条件でも旅行が出来るタフな観光客でなければならない」とリスネフスキーは言った。

 プロジェクトは来年開始される予定だ。公式資料によると、総費用は245億ルーブルになる。このうち150億ルーブルは民間投資である。投資家としてすでに「ローザ・クトール」が名乗りを上げている。自己資本20億ルーブルの5%~20%を投資する意欲のある人は誰でも参加できる。

 リスネフスキーは「このプロジェクトは潜在的に優れた収益性を持っている。特区の効果も合わせると年間最大20%だ。プロジェクトの実現には150億ルーブルの民間投資が必要だ。クルーズ船の観光客からの収入が重要な要素になる。これらの客は年間40万人だ」

 総投資額245億ルーブルのうち、90億ルーブル以上の公共投資が予定されている。択捉島のヤースヌイ空港の拡張、高速道路の建設、船の係留施設、電力網、取水及び処理施設などだ。

 ローザ・クトールは700人の観光客のために13kmのトレイルとスキー場とホテルを備えたスキー複合施設、さらにはゴルフコースと温泉施設の建設を計画している。「当社は過去6カ月にわたり、エトロフ・リゾート・プロジェクトを分析し、収益性を確認した。択捉島は西のソチと並ぶ最高の観光地の1つになる可能性がある」と、アレクセイ・ゾロビョフ代表は言った。

 サハリン州のリマレンコ知事は、潜在的な投資家を引き付けるために、サハリンと択捉島へのビジネス・ツアーを企画している。

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レイドヴォ(別飛)の海岸

 一方、「私たちはこれまてたくさんのプロジェクトを見てきた」と、択捉島の住民は冷ややかに見ている。過去に同様の例があった。レイドヴォ(別飛)の近く国際温泉センター「グリーン・レイク」を造成する壮大な計画があった。開発者は魅力的な絵を描き、韓国から投資家が来ると約束していた。州政府は共同事業者になった。しかし、すべてがどこかに消えてしまった。

 最近、計画地の近くで、島の企業ギドロストロイが自前で温泉施設「ホットウォーター」を建設し、住民と観光客に利用されている。その後、「グリーン・レイク」計画は規模を縮小して、コテージ群を建設する方向に転換したが、これも造られていない。州政府は「グリーン・レイク」の株を76万5000株所有し、評価額は100ルーブルから3ルーブルに下がった。州政府は売ってしまいたいのだろうが、誰も買い取ろうという人はいない。

 新しいエトロフ・リゾートはクリリスクから32kmも離れている。地元住民は「ゴリャチエ・クリュチ(瀬石温泉)のエリアが建設地に選ばれたが、そこは島の真ん中でない。だいたいこのエリアは地震多発地帯で、火山地帯だ。噴気孔からガスが噴出したらどうするんだ。大丈夫なのか。」–。

 択捉島住民の嘲笑は、ここに訪れると想定している観光客の数にも向けられた。「年間50万人だって? そのうち約40万人はアジアからアラスカに向かうクルーズ船の観光客だって? クリルはソチと間違われているのではないか」。クルーズ船を接岸させようと考えているサドコ湾は太平洋側にあり、絶えず強い風が吹き荒れる場所だ。そんなところに桟橋が出来ると思うのか?」などと懐疑的だ。

 択捉島の住民はいう。クリル諸島社会経済発展計画は行き詰っている。島にはまだ老朽化した住宅がたくさんあり、一方で住みかえるための新しい住宅建設のあゆみは遅い。4年前にクリリスクで整備された下水処理システムは何らかの理由で引き渡されていない。キトヴイ(内岡)とクリリスクの間に整備された遊歩道を歩くと、下水の酷い臭いに襲われる。

 あれやこれやで、ローザ・クトールのアイディアが島民によって「ユートピアに過ぎない」と認識されていることは、別に驚くほどのことではない。

 

 

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