本土最東端の納沙布岬には一日も早く消えることが望まれる火がある。北方領土返還を祈念するアーチ状のモニュメント「四島のかけ橋」の下で、赤々と燃える「祈りの火」。領土返還が実現するまで燃やし続けようと1981年に点火したが、その願いがかなわないまま今年で40年がたつ。消える日は来るのか―。関係者は複雑な思いを胸に灯火を守り続ける。(北海道新聞2021/3/5)
祈りの火は81年9月27日に点火した。返還運動関係者らでつくる財団法人が全国から募金を集め、望郷の岬公園(市内納沙布)に四島のかけ橋を建設。沖縄県波照間島から全国リレーで運んだ火を灯火台にともし、北方領土返還の日まで燃やし続けることにした。
現在は安全管理のため夜間は火を消し、ともすのは日中のみ。点火当時の火はランタンに移され、四島のかけ橋に近い啓発施設「北方館」で、同館職員が途切れさせることなく火を守っている。ランタンは64年開催の東京五輪で聖火を運ぶために作られたものだ。
祈りの火の燃料はプロパンガス。管理する市によると、燃料代など維持費は年間約300万円かかり、ふるさと納税や寄付金でまかなっている。元島民のほか、全国各地の個人、団体からの寄付も多く、北方領土対策課の担当者は「本当にありがたい」と感謝する。
一方で関係者はもどかしい思いを抱える。北方館の小田嶋英男館長は「火がついているということは、島が返ってきていないということだ。点火から40年が経過したことは、『周年記念』のように祝えるものではない」と複雑な心情を吐露する。
北方領土問題を含む日ロ平和条約締結交渉は厳しさを増す一方だ。ロシアは「領土の割譲禁止」を改正憲法に明記。2月にはロシア政府要人から、改正憲法を理由に日本への領土返還を拒否する発言が相次いだ。小田嶋館長は「交渉の状況が難しくなればなるほど、この火は続いていくのだろうか」と表情を曇らせる。
北方館のランタンも傷みが激しい。4年前には火を囲うガラス製の火屋(ほ や)が割れ、福井県のガラス専門業者から代替品を調達した。後日、この業者から「領土返還を祈っています」と手紙が届いた。小田嶋館長は「北方領土返還という思いはみな同じ。その願いが込められた祈りの火を消すわけにはいかないが、早く役目を終えられればいい」と話している。(村上辰徳)
コメント