政府は3日、稚内沖でロシア当局に拿捕(だほ)された「第172栄宝丸」(160トン、渡辺大介船長)が、日本の排他的経済水域(EEZ)内で操業していたとしてロシア側に2日に抗議したと発表した。5月28日の拿捕から5日要したのは、日ロ間で国境が画定しておらず、双方が主張する「中間ライン」が曖昧な海域だったことも影響した。自国のEEZ内だと主張するロシア側と見解が割れたことで乗組員14人の解放まで長期化する恐れもある。(北海道新聞2021/6/4)
加藤勝信官房長官は3日の記者会見で、拿捕は受け入れられないとして「即時釈放を引き続き強く要求していく」と述べた。菅義偉首相も同日、「人道的見地からもしっかりやらなければならない」と日本維新の会の鈴木宗男参院議員に語った。鈴木氏が面会後、記者団に明らかにした。
政府関係者によると、サハリン州コルサコフに連行された栄宝丸の船長らに同日、在ユジノサハリンスク日本総領事館の職員が初めて面会し、乗組員全員の健康状態などを確認した。
政府は衛星通信漁船管理システム(VMS)に記録された航跡や、水産庁が漁協を通じて行った僚船からの聞き取りなどを踏まえ、操業時の位置は「日本のEEZ内」と判断。一方、ロシア側は「ロシアEEZ内で違法操業していた」と主張している。
主張が対立する背景には、平和条約がなく、日ロ間の国境線が定まっていない事情が絡む。
元々、サハリン南端と宗谷岬間は約40キロしかなく、沿岸から200カイリ(約370キロ)のEEZは確保できない。日本側はサハリンとの地理的な中間ラインを日本のEEZとみなしてきたが「日ロ両国で合意した境界ではないため双方の解釈が異なることは有り得る」(外交筋)。
日本側には7月15日に予定される栄宝丸の行政処分を求める裁判を前に、ロシア側に保証金を払い乗組員の早期解放を探る動きもあったが、地元漁協の要望もあり抗議に踏み切ったという。日ロ双方の主張が折り合わなければ、解放に時間を要する可能性もある。(古田夏也、長谷川裕紀)
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