ビザなし渡航、今年も中止 「ぷつんと途切れた」元島民ら落胆

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 北方領土ビザなし渡航が2年連続で全面中止となり、高齢化が進む元島民や、子の世代の2世には落胆が広がった。ロシア人島民からは早期再開を願う声とともに冷めた声も上がった。(北海道新聞2021/8/18)

 「もう先は長くない。1年、1年が致命的に長く感じられる」。昨年に続き故郷の色丹島への訪問を希望していた得能宏さん(87)=根室市=は残念がる。

 15年ほど前から交流する「島の息子」と呼ぶロシア人島民が6月、得能さんの祖父らが眠る島の墓地を清掃し、様子を会員制交流サイト(SNS)で伝えてくれた。得能さんは「心の底から僕たちの思いを理解してくれている」と喜んだ。

 それだけに再訪への思いも募る。この2年で足が悪くなり、記憶力も衰えてきた。「来年こそ島に眠る家族に手を合わせたい。そして島の息子に『来るのはこれが最後かもしれない』と伝えなければならない」

 択捉島出身の松本侑三さん(80)=札幌市=も、2年連続で希望した同島への訪問がかなわず「高齢の元島民が古里に行ける機会は少ない」とため息をつく。事実上の代替策として検討されている船上からの「洋上慰霊」は「少しでも島に近づきたいという元島民の気持ちの表れだ」と実現を願いつつも、「ロシア側に『ビザなし渡航をやらなくてもいい』という口実を与えないか」と懸念する。

 国後島元島民2世の法月(のりつき)信幸さん(63)=根室市=らは2006年からビザなし交流に参加し、ロシア人島民と「対話交流」を重ねてきた。「腹を割って話せば互いの考えを知ることができる。島の返還に向けた相互理解につながる」との考えからだ。色丹島では19年から観光をテーマに対話を始めたばかり。「積み重ねが大切なのに、ぷつんと途切れた状態になってしまった」と再開を願った。

 一方、択捉島紗那(クリーリスク)の会社経営ビタリー・セルゲエフさん(45)は「2年間で大きく変わった島を日本の友人に早く見せたい」と中止を嘆いた。ビザなし渡航で日本本土への渡航を楽しみにしていたロシア人島民からも早期再開を望む声が上がったが、色丹島穴澗(クラボザボツコエ)の元村長ビクトル・ベルグさん(75)は「ビザなし渡航のイベントは形式的で面白くなく時間もかかる。行きたいと思わない」と話した。(根室支局 武藤里美、報道センター 村上辰徳、ユジノサハリンスク 仁科裕章)

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ビザなし中止を発表 コロナ禍、見えぬ再開

(北海道新聞2021/8/18)

 政府は17日、本年度の北方四島ビザなし渡航について、2年連続で全事業を中止すると正式発表した。日本政府は船上で慰霊祭を行う「洋上慰霊」を検討するとしているが、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、実施できるかは不透明だ。外交当局には、感染リスクや日ロ両国の検疫体制の違いを懸念する声も根強く、来年以降の再開もハードルが予想される。

 ビザなし渡航にはビザなし交流、自由訪問、墓参の三つの枠組みがあり、日本側は今年、5~9月に計19回の訪問を計画。日本政府は渡航に使うチャーター船「えとぴりか」(1124トン)に感染対策を施した上、検査キットなども整え、早期再開を目指してきた。

 しかし、日ロ両国ともに感染が収束しない中、両国間の協議もほとんど行えず、5月以降中止が続いてきた。政府関係者によると、参加者に感染時のリスクが高い高齢者が多いことに加え、コロナ禍で都道府県間の移動も自粛が求められる中、チャーター船が発着する根室に全国から人を集めることにも、懸念の声があったという。

 4月末にはクルーズ船「飛鳥2」で男性1人のコロナ感染が横浜港出港後に判明し、ツアーが中断する事態が発生。乗船前の検査を全員クリアしたにもかかわらず起きたため、ビザなし渡航も「一人でも感染者を出せば大変なことになる」と慎重論は一層強まった。

 国後島出身で千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)の脇紀美夫理事長(80)=根室管内羅臼町在住=は2年連続の全面中止について「元島民の平均年齢は86歳を超え、『今年が最後』との思いで参加する人が多い。来年こそコロナ禍が収束して再開できるのを祈るだけだ」と述べた。

 関係者によると、道や千島連盟は中止した事業の代わりに、9月下旬から10月上旬にかけて3回に分けて、四島周辺での洋上慰霊を検討。1回の参加人数を通常の半分以下の30人程度にするなどして、日ロ中間ラインを越えない形での実施を想定している。

 ただ、内閣府は17日、洋上慰霊について「支援を慎重に検討していく」と発表。感染拡大が続いている上、島に上陸しない形での実施に外務省内に慎重論が強いことが背景にある。

 鈴木直道知事は17日の談話で、ビザなし渡航の早期実施に向け協議継続などを国に求めていく考えを示した。ただ、コロナ禍が続けば、ロシア側が参加者に自国法に沿った検疫措置を求めた場合にどう対応するかなど、主権に絡む問題が出てくる可能性もあり、協議が難航する可能性がある。(古田夏也、武藤里美)

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