プーチン大統領を支える与党「統一ロシア」が勝利した19日開票のロシア下院選は、サハリン州が事実上管轄する北方領土で政権への強い期待感が示された。一方、都市部では長引く経済低迷への不満がくすぶり、政権に批判的な勢力が選挙への参加を制限される中、選択肢を狭められた有権者には冷めた空気も漂う。
(北海道新聞2021//22)
「プーチン氏は社会の安定、経済の発展、国防の強化を保証してくれる」。統一ロシアに投票した択捉島紗那(クリーリスク)の銀行員ラリサさん(43)はこう述べ、四島のインフラ開発や軍備増強を進める政権を支持した。
■人口減に危機感
北方四島を含むロシア極東の人口は約800万人とロシア全体の約6%にとどまり、減少傾向に歯止めがかからない。危機感を抱く政権は極東の開発推進が「長期的かつ最優先の課題」(プーチン氏)として、産業育成や外国からの投資拡大に力を入れ、クリール諸島(北方領土と千島列島)に新たな免税制度を導入する方針も打ち出した。
統一ロシアは北方領土で比例代表の得票率が5割を超え、色丹島穴澗(クラボザボツコエ)のスベトラーナさん(69)は「島の発展に巨額の投資をしてきたからだ」と強調した。だが、政権を評価する声は極東全体には広がっていない。
四島を事実上管轄するサハリン州の州都ユジノサハリンスクで野党に投票したアンドレイさん(60)は「プーチン氏の外交政策は支持するが、内政はだめだ。経済発展が遅れ、生活がよくならない」と嘆いた。ユジノサハリンスク市での比例票は「共産党」(31・4%)が統一ロシア(31・6%)に肉薄。「誰に投票しても変わらない。ロシアには事実上、選択肢がない」(50代女性)と議会体制への不満も少なくない。
■受け皿定まらず
政権は反体制派指導者ナワリヌイ氏の団体を「過激派組織」に指定し、関係者の立候補を阻止するなど、批判勢力を厳しく抑圧。共産党など主要野党は政権に近い「体制内野党」で、ロシア全土で政権批判の受け皿が定まらなかった。
首都モスクワで年金生活を送る女性(65)は「ナワリヌイ氏陣営が出馬していれば支持したかもしれない。汚職などロシアの体制的な問題について、彼らの発言の権利を奪うのは間違いだ」と不満を語った。
タス通信によると、モスクワ市で統一ロシアの比例得票率は36・9%。ロシア全体の49・8%を下回る中、ナワリヌイ氏陣営が各小選挙区で推薦する野党候補への投票を呼びかける「賢い投票運動」には野党支持者の間でも賛否が割れた。会社員の男性(37)は「ナワリヌイ氏を好きでないが、与党に反対するために支持する」と強調。年金生活者の女性(80)は「外国から資金援助を受ける挑発者だ」とナワリヌイ氏を批判した。
ロシア中央選挙管理委員会によると、モスクワでは15の小選挙区で与党系の候補が全勝し、ナワリヌイ氏陣営が推した候補はすべて2位にとどまった。(モスクワ則定隆史、ユジノサハリンスク仁科裕章)
コメント