北方領土の元島民の平均年齢が86歳を超える中、元島民らが島の記憶を語り継ぐ「語り部」の子や孫世代への引き継が停滞している。語り部としての派遣の要望が元島民に集中したり、新型コロナウイルス禍で活動制限を受けたりして、後継者世代が経験を積む場が減っているためだ。後継者たちは「元島民が減る中、実践の場が足りていない」と危機感を募らせる。(北海道新聞根室版2021/9/28)
語り部事業は千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟、札幌)が行い、教育機関などからの要請を受けて全国各地に語り部を派遣する。根室市内には今年4月現在26人の語り部がおり、このうち元島民以外の後継者は18人で7割を占める。返還運動の継承を担当する千島連盟の浜屋正一さん(58)=択捉島元島民2世=は「語り部をできる元島民が高齢になって減る中、後継者を育成しないといけない」と強調する。
一方、派遣先は島の生活を実際に経験した元島民を希望することが多い。後継者語り部の活躍の場を増やそうと、同支部は2019年度から、根室管内の小中学生を対象にした啓発事業「北方少年少女塾」での積極的な登用を開始。取り組みが浸透した昨年度は22回のうち8回を後継者が担当した。この事業を含めて同支部が昨年度実施した40回の語り部事業のうち後継者の担当回は9回で、前年度比14ポイント増の23%を占めた。
本年度は、新型コロナ対策の緊急事態宣言で啓発施設の閉館が続き、北方少年少女塾も現在までに3回しか開催できていない。うち後継者が登壇したのは1回だけだ。
約20年間語り部として活動してきた歯舞群島勇留島元島民2世の米屋聡さん(62)は「語り部に登録していても、後継者の多くは実績を積めていない」と話す。体験談が中心で感情を込めて話せる元島民と後継者の語り部は異なるといい、「親世代から聞いた話と、事実やデータなどを組み合わせて話すのが後継者世代。とにかく実践の場が必要だ」と語った。(武藤里美)
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