4日に始動した岸田文雄政権に対し、北方領土の元島民からは停滞が続くロシアとの領土交渉進展への努力を求める声が相次いだ。首相が外相などを歴任した安倍晋三政権は事実上、歯舞群島と色丹島の「2島返還」にかじを切ったが、岸田首相は「四島返還」を目指す意向を表明。ただ日本の方針転換を口実に、ロシア側が強硬姿勢を一層強める懸念もあり、粘り強い交渉を期待する声が上がった。「元島民が1人でも多く生きているうちに返還を実現してもらいたい」。元島民団体・千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟、札幌)の河田弘登志(ひろとし)副理事長(87)=根室市=は強調した。(北海道新聞全道版2021/10/05)
歯舞群島多楽島出身の河田さんは2007年9月、第1次安倍政権の沖縄北方担当相として根室市を訪れた岸田首相を出迎え、領土交渉の進展を求める要望書を提出。翌年には首相の呼びかけで内閣府職員らへの講話も行った。
「北方領土問題に関心を持ち、当事者の話に耳を傾けてくれる人だと感じた」と振り返る。
首相は領土問題を巡り、安倍政権や対ロ方針を継承した菅義偉政権の路線とは距離を置く姿勢を示すが、今後の交渉戦略は不透明だ。河田さんは「同じ路線をそのまま引き継いだら何も変わらない。プーチン大統領と直接会って粘り強く交渉してほしい」と話した。
両親が北方領土出身の小泉和生さん(66)=札幌市=は「岸田首相は四島返還という基本に立ち返るべきだ」と強調。ロシアとの交渉はさらに厳しくなる恐れもあるが「2島返還でさえ難しいのが現実だ。日本の立場が後退しないよう安易に妥協せず、長い時間をかけて交渉する覚悟を持つべきだと思う」と訴えた。(武藤里美、村上辰徳)
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