「しばらく来られずすまなかった。返還運動、頑張るから見守って」–。新型コロナウイルスの感染拡大で2年以上にわたって行えずにいる北方領土での墓参に代え、羅臼町沖で6日に実施された洋上慰霊。参加した元島民たちは国後島・羅臼山を間近に望み、先祖へ祈りをささげた。(北海道新聞釧路・根室版2021/10/7)
洋上慰霊は千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)羅臼支部と羅臼町が独自に企画した。
千島連盟の元島民や遺族19人を含め、計38人を乗せた観光船エバーグリーン38(19トン)は午前8時50分ごろ羅臼漁港を出港。真っすぐ目的地の日ロ中間ライン付近へと向かった。同9時20分ごろ到着すると、元島民らは船室から屋外デッキに上がった。
曇り空の下、海の向こうにたたずむ羅臼山に向け、参加者全員で黙とう。湊屋稔町長は「代表者のみだが慰霊できた。皆さまの思いが島に届き、北方領土問題が一日も早く解決することを願う」とあいさつした。参加者たちは僧侶の読経が行われる中で焼香し、それぞれの思いを胸に手を合わせた。
歯舞群島・多楽島出身の高岡唯一さん(86)=羅臼町=は「2年間墓参できず申し訳ない気持ちだった。歯舞群島に向かって手を合わせられ、気持ちがすっとした」と目頭を押さえた。
慰霊が終わると、舟は中間ラインに沿うように北上してから羅臼へ引き返し、午前11時ごろに帰港した。
船から下りてきた国後島・瀬石出身の吉田和衛さん(78)=中標津町=は「高齢で墓参できない人も多い。今回は、少しでも島に近づけてよかった」と振り返った。
歯舞群島・多楽島出身の福沢英雄さん(81)=標津町=は「いつか孫を連れて島に戻るのが夢。返還運動を頑張るので見守ってほしいと先祖に手を合わせた」と話す一方、「ビザなし渡航事業に一般の人も参加できるようになれば、返還運動も広がるのではないか」と指摘した。
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