環境省釧路自然環境事務所は30日、絶滅危惧種エトピリカが北方領土を除く国内で唯一繁殖する根室市のユルリ、モユルリ両島付近で行った今年の調査で、つがいの繁殖を確認できなかったと公表した。専門家は海水温の上昇で餌となる魚が減り、生息環境が悪化したと推測する。同省は「繁殖の維持は危機的状況にある」とし、飼育下の成鳥を野生に放ち繁殖を促すなど新たな保護増殖策の検討に乗り出す。(北海道新聞2021/11/30)
エトピリカは、環境省の絶滅危惧種リストで最も絶滅の可能性が高い「1A類」に指定されている。同省は5~8月の計12日間、両島周辺を船で巡回し、目視で調査した。1日に最多で4羽の成鳥を観察したが、子育ての行為やひなは確認できなかった。昨年もひなは確認できなかったが、成鳥が魚をくちばしにくわえて運ぶ行為は認められ、繁殖して子育て中とみられると結論づけていた。
同省は30日、専門家によるエトピリカの保護増殖検討会を釧路市内で開き、今年の調査結果を報告した。専門家からは餌の減少のほか、両島周辺で増加しているオジロワシがエトピリカの巣を荒らしかねないとの懸念が示された。釧路自然環境事務所の川越久史所長は「新たな保護増殖策を考えたい」と述べた。
エトピリカは北太平洋沿岸に分布し、現在は両島周辺が繁殖の南限。1960年代には道東で数千のつがいが繁殖したと推定されるが、北大などの調査では2015年時点で1980年比で87%減と推定された。環境省は、エトピリカを捕食するドブネズミを根絶するため両島に殺鼠(さつそ)剤をまくなど、対策を講じてきた。(佐竹直子)
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