ロシア政府がクリール諸島(北方領土と千島列島)に海外などから投資を呼び込むために新たに導入する免税制度について、国内で実効性を疑問視する見方が出ている。既に色丹島と千島列島に優遇税制を認めた経済特区「先行発展区」では大きな成果が出ておらず、高い物流コストなど課題が山積しているからだ。地元自治体からは免税による税収減を危惧する声も上がっている。(北海道新聞2021/12/4)
免税制度は国内外からの進出企業に対し、一部業種を除いて利潤税や土地税を免除するほか、島内に持ち込む機材などの関税をなくす「自由関税ゾーン」を設置する計画。政府は11月29日、免税期間を最長20年間とする法案を決定した。
プーチン大統領は9月の東方経済フォーラムで免税制度について「前例のない特権と刺激のあるパッケージをクリール諸島につくる」と説明。来年8月までに法整備を済ませ、2023年1月に導入する考えだ。
だが、同じように3~10年間、税の減免が受けられる色丹島などの先行発展区は投資が伸び悩む。極東・北極圏発展公社によると、参入したのはロシア企業のみで、17年に設置した色丹島が水産加工会社や旅行会社など4社、19年に設置した千島列島北部パラムシル(幌筵)島が燃料販売会社の1社にとどまる。
北方領土を事実上管轄するサハリン州の通信社「サハリン・インフォ」は、先行発展区について「会計検査院が『画期的な効果を得られなかった』と指摘している」とし、「免税制度は発展区と同様だ」と論評。投資が期待できない理由として、物流コストの高さやエネルギー不足、日本との領土問題を挙げた。全ロシア中小企業連盟のカリーニン会長は「企業が進出する際、最も深刻な問題は人手不足だ」と指摘した。
北方四島では新産業創出に期待の声があるものの、歓迎一色ではない。免税によって地方政府は税収が減る可能性があり、択捉島を管轄するクリール地区議会のベロウソワ議長は「予算にどう影響するか心配だ。連邦政府に補償してほしい」と訴える。同島紗那(クリーリスク)の女性会社員(30)は取材に対し「免税制度は企業がもうけるだけ」と冷ややかに語った。
ロシア政府は免税制度を日ロ両国が北方領土で検討している共同経済活動にも適用する考えだが、日本政府はロシア法に基づいた制度を「わが国の立場と相いれず、受け入れられない」と主張している。【ユジノサハリンスク仁科裕章】
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