北方領土結んだ海底ケーブル 流氷などで度々断線 貴重な資料発見

 終戦直後まで北海道根室市北方領土の国後(くなしり)島、択捉(えとろふ)島をつないだ通信用海底ケーブルに、明治から昭和にかけての補修などを記録した文書が見つかった。ケーブルを根室市で陸上に揚げていた「陸揚庫(りくあげこ)」が10月に国の登録有形文化財になったものの、未解明の点が多い海底ケーブルの歴史をたどるうえで、貴重な資料となりそうだ。(朝日新聞北海道版2021/12/3)

 海底ケーブルは当初、1897(明治30)年に旧逓信省が標津(しべつ)町と国後島間の根室海峡国後島択捉島間の国後水道にそれぞれ敷設した。当時は、千島列島周辺などの海域で英米の密漁船への対策や、帝政ロシアの東進をにらんでの警備強化が必要となっており、こうした方面への連絡手段の確保を狙いとしていた。

 だが、すぐに流氷による断線に悩まされることになる。99年に国後―択捉間で、1900年には根室―国後間で敷設し直された。見つかった文書の一つには、国後―択捉間33・869カイリ(約63キロ)が通信用導線1本のケーブルで1899年8月14日に、根室―国後間20・637カイリ(約38キロ)が導線2本のケーブルで1900年9月28日に、それぞれ敷設されたとあり、開通当初の状況を詳細に伝えている。

 また別の文書は、潮の流れが激しいことで知られる国後水道で、1909(明治42)年1月~28(昭和3)年12月に11件の故障が発生し、修理されたことなどが記されている。ケーブルに対する何らかの試験で得られた電圧や、絶縁抵抗の数値などを記した文書もある。

 これらの文書を保管していたのは、海底通信ケーブルの敷設などを手がける企業「NTTワールドエンジニアリングマリン」(本社・横浜市)が長崎市に持つ海底線史料館。旧逓信省の流れをくむ同社には、明治以降に同省が敷設した海底ケーブル関係の資料や設備が数多く残されており、史料館で保管してきた。

 根室市の陸揚庫が「地域と北方領土とのつながりを示す貴重な施設」として国の有形文化財に登録されたことなどを受け、同社が史料館を調べたところ、補修の記録などの関係文書を納めた「根室海峡以北」と題するとじ込みが見つかった。

 同社の平林実取締役らは11月25日、陸揚庫に残る海底ケーブルの調査のため、根室市を訪れた。国後島に臨む海岸に立つ陸揚庫の地下部分から、すぐ海に延びているケーブルが、外装鉄線を密に二重に巻いて特別に頑丈にした太い「アイリッシュ形特殊浅海線」であることを確認した。

 それに比べ、海岸のかなり沖合で以前に引き揚げられたケーブルは、より細いものだった。平林取締役は「浅瀬では、押し寄せた流氷が海底に敷かれたケーブルを切る恐れがあった。それを防ぐため、当時でも高価ではあるが、非常に頑丈なものを使ったのだろう」と推測した。

 海底ケーブルや陸揚庫の建設に関連する資料類は、根室市などにほとんど残っていない。陸揚庫については、明治のケーブル敷設と同時期の建設という当初の見方に対し、工法などから昭和10(1935)年ごろに建て替えられたとの説が最近は有力だが、なお決め手に欠ける状態だ。

 平林取締役は「陸揚庫から国後島の山が見え、近いことに驚いた。引き続き、旧逓信省関係の資料を調べ、我々の先達たちが築いた日本の海底通信ケーブル史にとっても貴重な施設の由来を、さらに明らかにしたい」と話している。(大野正美)

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陸揚庫内を調査し、残された海底ケーブルを撮影する平林実取締役(右)ら=2021年11月25日、北海道根室市

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陸揚庫前から海底ケーブルが延びていた海岸で国後島の方向を望む平林実取締役(左)ら=2021年11月25日、北海道根室市

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陸揚庫から海に延びる海底ケーブルを指さし、「流氷に備えた頑丈なもの」と説明する平林実取締役=2021年11月25日、北海道根室市

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見つかった海底ケーブルの敷設や故障修理を記録した文書。国後島などの地図も見える=NTTワールドエンジニアリングマリン社提供

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国後水道での明治42(1909)年や大正3(1914)年などの故障修理の記録が記された文書の一部=NTTワールドエンジニアリングマリン社提供

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海底線史料館に保存されていた国後島海底ケーブル関係文書などのとじ込み=NTTワールドエンジニアリングマリン社提供

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海底線史料館に展示された根室の陸揚庫に残る海底ケーブルと同形の「アイリッシュ形特殊浅海線」。強度を持たせるため、外装の鉄線が密に巻かれている=NTTワールドエンジニアリングマリン社提供

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国の登録有形文化財になった海底通信ケーブルの陸揚庫=2021年11月25日、北海道根室市

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