1991年12月のソ連崩壊から30年がたち、ロシア極東のサハリン州は石油・天然ガス開発で劇的な経済発展を遂げた。平均所得はこの20年で大きく伸び、一部富裕層の生活水準は欧米並みに向上した。ただ、ヒト、モノ、カネが集中する州都ユジノサハリンスクとは対照的に地方は人口減少が進み、衰退の一途をたどる。経済格差は広がる一方で、住民に不満が高まっている。(北海道新聞2021/12/28)
「今のロシアはお金を稼げば、幸せを手に入れられる。怠け者は物乞いになるしかない」。最近、ユジノサハリンスクでマンションを購入したビタリーさん(50)は自信に満ちあふれている。富裕層らを相手に結婚式などの記念ビデオを制作するビジネスを手掛け、2時間の撮影で3万ルーブル(約4万6千円)以上を稼ぐ。
ロシア連邦統計局によると、2020年のサハリン州の住民の平均月給は約9万3千ルーブル(約14万4千円)で、01年と比べ18倍以上に増えた。中でも石油ガス開発企業に勤める住民の月給は40万ルーブル(約62万円)を超える。
ユジノサハリンスクでは、極東最大級の商業施設周辺に高級住宅街が広がり、マンションも立ち並ぶ。駐在外国人用に開発されたが、欧米並みの生活を求め富裕層が移り住んだ。92年から日本料理店を経営する札幌市出身の宮西豊さん(87)は時代の変化を感じている。「当初、客は日本人ばかりでロシア人は水産関係者の接待で来るだけ。今はロシア人が大半だ」
ただ、サハリン州全体では人口減少が進む。ソ連崩壊時に71万人だった人口は現在48万人。ユジノサハリンスクは30年前から約4万人増えて20万人になったが、石油ガス開発に関わらない地方は衰退。富が集中する州都や大陸の大都市に移住する動きが加速した。
ユジノサハリンスクから北に約500キロ。ティモフスク地区のアドティモボ村は、ソ連時代に3千人以上いた人口が数百人に激減した。国営の農場や工場は全て閉鎖。道路は未舗装で、老朽化した家屋しかない。
軍施設の警備員ラリーサさん(58)は「多くの人が仕事を求めて出ていった」と話す。月給は2万4千ルーブル(約3万7千円)。年金を加えても生活費が足りず、野菜は家庭菜園で自給自足する。オイルマネーの恩恵を感じられず「ソ連時代は貧しくても生活が安定していた。資本主義は金が全て。貧富の差が国民を分断した」と嘆いた。【ユジノサハリンスク仁科裕章】
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