ロシアが実効支配する北方領土を除くと国内で唯一、絶滅危惧種の海鳥エトピリカが繁殖している根室市の無人島ユルリとモユルリの付近で、2021年の繁殖が確認されなかったことが環境省への取材で明らかになった。気候変動で餌となる魚が減るなど生息環境の悪化が影響したと推測される。関係者は「個体数維持は危機的状況」と頭を抱える。
エトピリカはアイヌ語で「くちばしが美しい」という意味で、オレンジ色の大きなくちばしで知られる。環境省によると、生息域は北太平洋沿岸に広く分布し、現在は両島周辺が繁殖の南限。
国内では1970年代から生息数が激減し始め、現在は数組のつがいが確認されるのみ。漁網への混獲や、オジロワシなど大型鳥類による捕食も減少要因と指摘される。
環境省は年間を通して毎月3回程度、両島付近を小型船で巡視。21年7~8月には計5回、過去にエトピリカが繁殖していた地域の沖で調査を行った。これらの調査で1日に最大で4羽の成鳥を見かけたが、子育て行為やひなは確認できなかった。
20年もひなは確認できなかったが、成鳥が餌をくわえて運んでいる様子が見られ、少なくとも1組のつがいは子育て中と推察していたという。
かつての営巣地で、08年を最後に繁殖が確認できなくなった浜中町で保護活動に取り組んできたNPO法人エトピリカ基金の片岡義広理事長(73)は「水族館で育てたひなを島に放つなどしないと、このままでは日本からいなくなってしまう」と訴えた。(毎日新聞北海道版2022/1/11)
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