エマニュエル駐日米大使が北方四島を日本の領土とする立場を表明したことに対し、日本政府から歓迎する発言が相次いでいる。ただ、岸田文雄政権は歯舞群島と色丹島の「2島返還」を優先する方針だ。米大使の発言は、ウクライナ情勢が緊迫する中でロシアとの接近を牽制(けんせい)する意図があった可能性もある。それでも日本側が「素直」に歓迎するのは、北方領土をめぐる日露交渉の停滞を反映しているといえそうだ。(産経新聞2022/2/12)
エマニュエル氏は7日に投稿したツイッターの動画で「米国は北方四島に対する日本の主権を1950年代から認めている」と発言した。同じ動画ではウクライナ情勢についても言及し「10万人の兵士を集め、欧州を紛争と危機の危険にさらしている」とロシアを非難した。
米国は過去には2島返還を模索する日本を牽制している。日ソ共同宣言前の31年8月、ダレス米国務長官(当時)は重光葵外相(同)との会談で、日ソ接近を阻止するため、「日本がソ連案を受諾する場合は米国も沖縄の併合を主張しうる」と恫喝(どうかつ)した。
外務省幹部は「米政府がダレスみたいな牽制球を投げることは、たまにある」と明かす。エマニュエル氏は大統領首席補佐官や下院議員の時代から老練な交渉力で知られる。動画には、領土交渉を進めようとすればロシアに利用されかねないと警告する意図があったとしても不思議ではない。
ただ、シンガポール合意の当事者である安倍晋三元首相は令和2年に退陣し、菅義偉前首相と岸田首相はプーチン露大統領と対面形式の会談を行っていない。外務省幹部は「日露交渉が動いているときなら話は別だが、今は動いていないのでエマニュエル氏の発言を深読みする必要はない」と話す。
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