ロシアが北方領土問題を含む平和条約締結交渉を拒否し、ビザなし交流や自由訪問を停止する方針を表明したことについて、根室管内の元島民らは「想定内」と冷静に受け止めながらも「ロシアは戦争をやめ、交渉を再開すべきだ。日本政府も諦めないでほしい」と願った。(北海道新聞釧路根室版2022/3/23)
■「二度と島には行けない」覚悟も
色丹島出身の得能宏さん(88)=根室市在住=は「想定内ではあったが、これで今年は島に行けないと決まったも同然なので、複雑な気持ちだ」と語る。
1992年のビザなし交流第1陣に参加した。色丹島には「息子」と呼ぶ親しいロシア人がいるが、迷惑をかけるかもしれないと連絡を控えている。「ロシアは戦争をやめて早く正常な道に戻ってほしい。僕も一日も早い問題解決を呼びかける。日本も諦めたら困る」
歯舞群島志発島出身の木村芳勝さん(87)=同=は「ロシアの一方的な主張は受け入れられない」と落胆する。今年、息子、小学生の孫の3世代で北方領土墓参の参加を申し込んでいた。ロシアは墓参の中止には触れていないものの「いずれ中止になるだろう。もう二度と島には行けないと思っている」と覚悟する。
歯舞群島多楽島出身の高岡唯一さん(87)=羅臼町在住=も「今年が最後の古里訪問」とビザなし渡航への参加を申し込んでいた。「人道的な面から、古里への思いを理解してほしかった」と残念がる。
元島民2世は平均年齢86歳を超える元島民の無念を代弁する。国後島出身2世の鈴木日出男さん(70)=羅臼町在住=は「一日も早くロシアは侵略をやめて、平和条約交渉のテーブルに着いてほしい。元島民には時間がない」と強調した。
やはり国後島出身2世の舘下雅志さん(62)=中標津町在住=は「ビザなし交流停止は予想できたが、元島民にとってはつらい。ロシアの良識ある判断に期待するしかない」と述べた。
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根室市議会の各会派は、ロシアのウクライナ侵攻に抗議する決議案について、22日に休会した2月定例月議会での提出を見送った。
複数の市議によると、決議案提出の動きもあったが、サケ・マス漁や北方領土・貝殻島周辺でのコンブ漁などへの影響を懸念する意見が上がり、全会一致で可決する見通しが立たなかった。ある市議は「決議をしないことでこの地域の苦しさを表すことにもなる」と話した。
ただ、ベテラン市議はロシアの平和条約交渉拒否などを受け「これ以上見過ごせなくなれば、緊急議会を開いて行動に移すこともある」と述べた。根室管内の4町議会はいずれも決議案を可決した。(武藤里美、田中華蓮)
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