国後島のクリル自然保護区とモスクワ国立大学生物学部の研究チームが5月19日から6月14日まで、根室海峡で鯨類の調査活動を行った。遠征隊のリーダーは、脊椎動物学科の動物行動研究所のあるオルガ・フィラトワ主任研究員によると、5月末には、新種のクロツチクジラ(Berardius minimus)を観察した。このクジラは3年前に日本の科学者が発見。昨年、国後側の調査で、根室海峡で初めて生きた個体14頭を確認した。今年は16頭のクロツチクジラを観察し、春の終わりから初夏に根室海峡が定期的な生息地であることが確認された。今回は、クロツチクジラの群れが潜った場所で、皮膚のサンプルが混じっている水を採取した。将来的にDNA配列フラグメントを取得できるようになるという。(クリル自然保護区ウエブサイト2022/6/18)
6月に入ると、天気が良い日には毎日、シャチと遭遇した。ボートで近づき、個体識別のために後ろのヒレの部分の写真を撮影した。写真を分析し、新しい個体をカタログに追加する。この手法によりいくつかの問題を解決できる。同じシャチがいつも根室海峡にいるのか、違うグループが来ているのかがわかる。これを続けることで数年後には、根室海峡に生息するシャチの総数を概算することが可能になる。次に、国後島のシャチとクリル諸島(千島列島)北部・中部、カムチャツカ半島、コマンドルスキー諸島のシャチのカタログを比較することで、シャチの長距離移動について調べることが出来る。そして3つ目に、家族構成や一緒に行動する個体、群れの個体が他の群れに移ることがあるのか–などシャチの社会構造を研究する。国後島のシャチの家族構成はまだ明らかにされていない。家族構成を確実に判断するには、同じシャチに何度も会う必要がある。たとえば、KU325の個体識別番号を持つシャチがどの家族に属しているのか、長い間分からなかった。このシャチには、異なるグループと行動を共にしており、すべての出会いを分析し、写真をカタログと比較し、この個体が最も頻繁に会った個体を特定することで、家族の構成を決定することが出来た。
シャチKU325(奥)とKU352
また、写真撮影に加えて、水中マイクのハイドロフォンを使用して、シャチの音を録音した。それぞれのシャチの家族は、特定の音で構成される独自の方言を持っている。さまざまな家族の音を録音することで、それぞれの方言を特定する取り組みである。シャチの音は、人間の言語のように時間の経過とともに徐々に変化するため、それらの類似性から、さまざまなグループの関係を大まかに整理することが出来る。
シャチの群れに接近
南クリル諸島(北方四島)の海は冷たい。5月から6月の水温は4度から9度。ボートで作業するには救命胴衣としても機能する特別なスーツが必要だ
このシャチのグループでは、左側のヒレが高いのは成体のオス、右側は若いオスです。 中央の個体はメスと若いオスのどちらかである可能性がある
海での作業。オーディオレコーダーと特別な防水機能があるノート
根室海峡のミンククジラ
オルガ・フィラトワ主任研究員が今年出版したシャチの研究に関する書籍。アルピナノンフィクション出版社(モスクワ)から3,000部出版された。全470ページ。自然と海洋哺乳類の生態に興味のあるすべての人に勧める
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