「いつ古里の地を踏めるのか」―。23日に始まった「洋上慰霊」の参加者は慰霊の機会を喜ぶ一方、新型コロナウイルスの感染拡大とロシアのウクライナ侵攻により北方領土ビザなし渡航は中断3年目となり、もどかしさや、ビザなし渡航再開に向けた政府間交渉を訴える声も目立った。(北海道新聞2022/7/24)
参加者がチャーター船「えとぴりか」の中から黙とうした慰霊式。歯舞群島志発島出身の上野毅さん(80)=山形市=は「なかなか上陸できなくてごめん」と祖父の墓がある島に手を合わせた。上野さんはこれまで3回ビザなし渡航に参加。日ロ関係悪化の中、ビザなし渡航実現の見通しが立たなくなり、「少しでも島に近づきたい」と今回の船に乗った。ただ、慰霊するうち「もう一度、島に行きたい」という気持ちがこみ上げたという。
ロシア側はウクライナ侵攻後の日本の制裁に対抗し北方四島の「ビザなし交流」「自由訪問」を停止。日本側は「墓参」を含むビザなし渡航の当面の見送りを決めた。こうした対応を受け、洋上慰霊では日ロ中間ラインの根室側を通る。
漁師の工藤繁志さん(82)=根室市=は出身地の歯舞群島多楽島に姉の墓があり、同島に向かい「慰霊ができた。良かった」とつぶやいた。ただ、工藤さんはコンブ漁の漁期には中間ラインを越え歯舞群島貝殻島付近で操業していたため、島まで近づけない今回の慰霊に歯がゆさも感じた。「中間ラインを越えるなど、もっと島に近づく対応はできないのか。政府はロシアへの制裁は切り離し、人道的な観点から交渉に取り組んでほしかった」と話した。
道と洋上慰霊を共催した千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)の脇紀美夫理事長(81)=根室管内羅臼町=は帰港後、「元島民は島に思いをはせ慰霊したが、本来の姿ではない。なんとか(ビザなし渡航による)墓参を再開して、と訴えたい」と語った。
自身も参加した鈴木直道知事は「今できることは洋上慰霊しかない。厳しい状況を広く知ってもらうためにも、今回の事業を全国に発信していきたい」と述べた。(武藤里美、松本創一)
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