ロシア政府が北方領土ビザなし渡航のうち、「ビザなし交流」と「自由訪問」の合意破棄を発表し、再開が極めて困難になったことについて、釧路、根室管内の元島民らには落胆が広がった。ただ、今回の破棄対象には「北方領土墓参」は含まれておらず、元島民からは「せめて墓参の早期再開を」と願う声も強まっている。(北海道新聞釧路根室版2022/9/7)
「何年かに一度の古里訪問さえロシアは許さないのか。父の墓に手を合わせられず、悲しい」。国後島出身・鈴木昭男さん(81)=根室市=は、こう語る。今年、国後島への自由訪問参加を目指してきただけに、ロシア側の一方的な発表に無念さは大きい。その上で「ロシア側に『墓参も諦めた』と思わせないよう、日本政府は交渉をしっかりして」と求めた。択捉島トシルリ出身の奥泉一子さん(82)=釧路市=は「今のウクライナ情勢を考えると予感はしていた」としながらも、「なんとしても故郷に帰りたい。絶対に島への思いは諦められない」と話す。
ロシア側の発表は、自由訪問とビザなし交流に関する合意の破棄を表明した一方、人道目的で行われてきた北方領土への墓参については触れていない。墓参の見送りは日本政府が4月、ロシアのウクライナ侵攻を受け発表しており、日ロが交渉すれば再開の道が開けるとの期待も根強い。
歯舞群島志発島出身の臼田誠治さん(82)=別海町=は「墓参まで破棄とならなかったことがせめてもの救い。ロシアの政権が代われば変化が生まれる可能性もある」とも指摘。「ロシアの人たちは信仰には理解がある。墓参を糸口に話し合いを続けてほしい」と対話の継続を求めた。
墓参再開を危惧する声もある。「日本の姿勢が変わらなければ、いずれ墓参も停止するのでは」。志発島出身の南保直光さん(83)=根室市=は力を込める。「墓参は北方領土と日本人をつないでいた線。それすらなくなったら北方領土交渉は終わり。政府は交渉する姿勢を見せて」と語った。国後島民2世の舘下雅志さん(63)=中標津町=は「対話の積み重ねが無になった」とロシア政府による合意の破棄を残念がり、今後の墓参についても「これまで通り再開できるか見えない」と不安を口にした。
千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)の脇紀美夫理事長(81)=羅臼町=は「墓参の道は残されているのが唯一の望み。これを足がかりに交流事業や自由訪問につなげていければいいのだが」と希望をつないだ。(武藤里美、川口大地、今井裕紀、川原田浩康)
コメント