オホーツク管内斜里町の知床半島沖で小型観光船「KAZU 1(カズワン)」が沈没した事故で、第1管区海上保安本部(小樽)は9日、ロシア側から男女3遺体を引き取った函館海保の巡視船「つがる」が10日朝に小樽港に入港する予定だと発表した。到着後、1管本部が遺体のDNA鑑定を行い身元を特定する。(北海道新聞2022/9/10)
1管本部は9日、「航海は順調に進んでいる」として、予定通りに小樽港に着くとの見通しを示した。
ロシア・サハリン州南部コルサコフ港で3遺体を引き取ったつがるは同日午前10時すぎに出港、約400キロ離れた小樽港に向かっている。つがるは遺体引き取りのため8日午後1時ごろ、小樽港を出発。日本時間9日午前にコルサコフ港に接岸し、同港の岸壁で遺体が積み込まれた。
ロシア側のDNA鑑定では、北方領土国後島で5月に発見された2遺体は甲板員曽山聖(あきら)さん(27)と道内の乗客女性(21)、サハリン本島南部で6月に見つかった遺体は道内の乗客男性(59)=いずれも事故当時=と一致した。
5月上旬に国後島で最初に女性の遺体が見つかっており、今回の引き渡しまで約4カ月かかった。遺体は小樽港到着後、1管本部の施設に一時保管。その後、道内の大学医学部で身元確認を行う。
事故は乗客乗員26人のうち、15人の死亡が確認され、行方不明者は11人。今回の3人が乗船者と確認されると、残る不明者は8人になる。(石垣総静)
遺体引き渡しまで4カ月 北方領土問題が影 場所の調整難航 知床事故で日ロ
(北海道新聞2022/9/10)
■政府は「関係悪化の影響ない」
日本政府は9日、北方領土・国後島などで発見された男女3遺体がロシア側から引き渡されたことに対し、政府間の調整に日ロ関係悪化の影響はなかったと説明した。ただ、国後島での遺体発見から引き渡しまでに約4カ月かかった背景には、ロシアのウクライナ侵攻を巡り、日ロ双方が原則的な立場を強める北方領土の主権問題が影を落としている。
「日ロ関係の悪化が何かしらの障害になっているとは考えておらず、適時適切にやりとりを行ってきた」。松野博一官房長官は、同日の記者会見でこう強調した。同日午前のサハリン州南部コルサコフ港での遺体の引き渡し作業も「トラブルもなく驚くほど順調に終わった」(海上保安庁関係者)という。
日本政府関係者によると、引き渡しが遅れた理由の一つは、遺体の身元を確認するため、ロシア側のDNA型鑑定に必要な遺伝子データをまとめるのに日本側で一定の時間を要したことがある。5月に見つかった2遺体が乗員乗客のDNA型と一致が判明したのは6月下旬だった。
さらに難航したのは、ロシアが実効支配する国後島からの引き渡し方法を巡る調整だった。日本側は当初、主権問題に触れないよう、国後島と北海道本島の中間ラインの洋上で引き取る案を提案。過去に例があり、距離も近いためだがロシア側は応じなかった。
日本側は7月中旬、北方四島ビザなし交流の枠組みを使って海保の船舶で国後島に引き取りに行く代替案を第1希望として打診。しかし、ロシア側はウクライナ侵攻に対して制裁を発動した日本への対抗措置として停止したビザなし交流の活用は認めなかった。
このため、サハリン本島まで日本側が引き取りに行く案で最終的に折り合った。ロシア側としては人道目的の協力には応じる一方、主権問題では譲らない姿勢で臨んだとみられる。(渡辺玲男、竹中達哉)
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