日本遺産「『鮭(さけ)の聖地』の物語 根室海峡一万年の道程」の舞台を巡る、ツアー商品開発が動きだした。「鮭の聖地」は2020年6月に文化庁から日本遺産に認定されたが、新型コロナウイルスの感染拡大で、観光振興につながらない状態が続いていた。感染状況の落ち着きが見込まれる中、標津町が中心となってこの秋、旅行会社などを招いて根室海峡沿岸部で2回のモニターツアーを開催。上々の評判が得られた。(北海道新聞釧路根室版2022/10/20)
鮭の聖地は、有史以前から続くサケ漁を軸に、アイヌ文化やロシアとの交易などが関わり地域が発展したことを描く「歴史物語」。根室、別海、標津、羅臼の1市3町を舞台に、標津遺跡群伊茶仁カリカリウス遺跡、全長28キロの砂嘴(さし)・野付半島(別海、標津)、金刀比羅神社(根室)などの構成文化財を指定。4市町の「鮭の聖地メナシネットワーク」がPRを重ねている。
一方、日本遺産の認定前後に新型コロナ禍が拡大。道によると、根室管内を訪れた観光客数は19年度の約195万人から、21年は約97万人に半減した。この間、日本遺産認定を観光に生かす取り組みも停滞し、「鮭の聖地」ブランドは成長できていない。
本年度は個人客が戻り始め、水際対策の緩和の動きが出てきたのを受け、同ネットワーク事務局の標津町が旅行会社に商品企画を促すモニターツアーを企画。道の「道内航空需要回復支援事業」による補助を活用し、事業費は約500万円。9月下旬に自治体関係者ら、10月中旬には旅行会社4社などを招いた。
遊覧飛行をし、日本遺産構成文化財などをバスで巡るツアー。10月は15~17の3日間で行い、旅行会社や雑誌社の15人が参加した。15日はチャーター機で中標津空港を出発し沿岸部上空を約50分間飛行。窓から格子状防風林が見え、北から渡ってきた白鳥の群れも見られた。参加者は根室海峡の夕景を眺め「ドラマチックだね」などと話していた。
16、17日は野付半島、厚床フットパスなど4市町の15カ所を訪問。標津町のポー川史跡自然公園では約2500の竪穴住居跡が集まるカリカリウス遺跡を、南知床標津町観光協会の井南進会長(71)の案内で視察した。千年以上前の状態で残る直径10メートルほどの住居跡に「大きいね」「意外と深さがある」と声が上がった。
根室海峡沿岸を初めて訪れた日本航空観光推進室の宮原祐マネジャー(51)は「見どころがいっぱい。『鮭の聖地』の1テーマで地域を盛り上げようとしていることに感動した」と商品開発に前向きだ。一方、別の旅行会社からは「早朝からサケの水揚げを見て、さらに標津町内を1時間歩いた。お客さんには大変かもしれない。商品化には工夫が必要」と指摘した。
「鮭の聖地」日本遺産指定の準備に携わったポー川史跡自然公園の小野哲也園長(48)は、地域観光を担う住民ガイドの高齢化を課題に挙げる。「日本遺産として知名度が上がれば来訪者が増え、町民の郷土愛の醸成にもつながる」と、旅行商品開発に期待する。
また、鮭の聖地の活用については自治体間で取り組みに温度差もみられる。標津町の星京子副町長は「まずは日本遺産『鮭の聖地』の知名度を上げること。ツアーが知られるようになれば周辺にも観光客が訪れ、民間や自治体の動きも広がる可能性がある」と話している。(森朱里)
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