引き揚げの悲しさ伝える 語り部活動を続ける色丹島2世・荒井秀子さん(54)=根室市<四島よ私たちの願い 日ロ交渉停止>28

 色丹島元島民2世の荒井秀子さん(54)=根室市=の母、祥子さん(77)には島の記憶がない。終戦の年に生まれたからだ。祖母の角田キヨノさん(故人)も島の話はあまりせず、荒井さんは「2世なのに何を継承すればいいか迷った時期もあった」と明かす。(北海道新聞根室版2023/2/4)

 10年以上前、元島民の男性から「島の生活ぶりだけでなく、引き揚げ時の悲しさや悔しさも語り継いでほしい」と声をかけられた。その言葉は高齢化により元島民が減る中で重みを増していき、次第に家族以外の元島民の思いを積極的に聞き取るように。四島にもこれまでにビザなし交流などで10回以上訪問してきた。

 だが、新型コロナウイルスの影響で元島民と顔を合わせる機会は激減。「今この時に1人でも多くから話を聞いておかないと、間もなく消えてしまう記憶がたくさんある」と危機感を口にする。

 伝えることにも積極的だ。根室市内で経営する飲食店に来店した観光客には「納沙布岬から貝殻島まではわずか3・7キロ」「元島民にとっては近くて遠い場所」などと、北方領土について意識的に話している。「返還運動に関心を持つ人を増やすことが、領土交渉、ビザなし渡航再開のめどが立たない今できること」と考えるからだ。

 昨年12月には東京で実施した「北方領土返還要求中央アピール行動」のデモ行進に参加。今月4日には「北方領土の日高知県民集会」(高知県)に語り部として出席する。

 ロシアによるウクライナ侵攻からもうすぐ1年。「古里に帰れる日が遠のいた元島民の苦しみを、北方領土から遠い地域の人にも分かりやすく伝えたい」。そう話す姿に、次代の返還運動を担う後継者の自覚がにじんだ。(川口大地)

 

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