3月30日、根室管内羅臼町を間近に望む北方領土・国後島南西の沿岸海域が、ロシア政府の電子オークションにかけられた。対象地域は約500ヘクタール。ウニやホタテなどの養殖向けで、国後島の水産業者が約500万ルーブル(約800万円)で落札した。(北海道新聞2023/4/15)
海産物の養殖は、2016年12月の安倍晋三首相(当時)とプーチン大統領の会談を受けて検討が始まった北方四島での日ロ共同経済活動の優先事業の一つ。道東の漁業関係者に期待の声があり、養殖が普及していない四島側も日本との技術協力に関心があったが、協議は進まなかった。オークションは、ロシア独自に養殖事業を始めるために初めて行われた。
昨年3月、ロシア政府はウクライナ侵攻に対して制裁を科した日本への対抗措置の一つとして、共同経済活動を巡る協議からの撤退を表明。国後島では、養殖と並び優先事業とされたごみ処理も、ロシア単独で事業化に向けた動きが進む。
「ロシアだけでも技術があり、日本の協力がなくても大丈夫だ」。国後島の関係者は強がるが、ノウハウが乏しい養殖事業などを軌道に乗せられるのか、不透明感が漂う。
開発が遅れている四島の整備を促進するため、国内外から民間投資を呼び込む戦略をとってきたプーチン政権。14年に併合したウクライナ南部クリミア半島の開発に巨額の資金投入を迫られ、四島に投じる国の予算が減ったことも、その背景にあるとされる。
ただ、思うような成果は出ていない。ロシア政府は、極東開発に参入する企業の税金を減免する経済特区「先行発展区(TOR)」を17年、クリール諸島(千島列島と北方領土)にも指定したが、四島への参入は4社にとどまる。いずれもウラジオストクのロシアの水産企業の傘下で、20年以降は新規参入がない。
■異例の特区指定
22年3月には、新たに四島に大規模な免税特区を導入。プーチン氏は各国の企業関係者らが参加した経済フォーラムで「前例のない措置」とPRし、極東・北極圏発展省は「1年間で13社が参入した」と成果を強調する。しかし、海外企業はゼロで、島民の新規雇用も「130人」(同省)。地元への恩恵は限定的だ。
ロシア上院は3月15日、さらに建設資機材の税関手続きなどを簡素化する特区をクリール諸島に適用する法案を承認。住民が合計約1万8千人しかいない四島に、三つの特区が導入される異例の形となった。「人口の少ないこの領土を早く開発するために、あらゆる手を尽くす」。極東担当のトルトネフ副首相は3月中旬、ロシアメディアにこう訴えたものの、なりふり構わぬ政策投入は焦りの裏返しと言える。
■中国も慎重姿勢
こうした中、ロシア側の頼みは、やはり中国だ。「中国は温泉、狩猟、釣り、食に特に関心がある」。3月中旬、モスクワで開かれた観光展示会。四島を事実上管轄するサハリン州政府の幹部は、国営タス通信の取材に、7~8月に中国の投資家をクリール諸島に招く計画があると説明した。
しかし、四島では現在、21年末に国後島ユジノクリーリスク(古釜布)に開業したショッピングセンター内にある中国製衣料などの店が、唯一の「中国資本」とされる。関係者によると、国後島には別の中国人経営者が手がける自動車修理工場もあったが、22年に廃業したという。
四島はインフラ整備の遅れに加え、夏場を除くと気候が厳しく、行き来する交通網も安定していない。日ロ経済関係者は「中国も、もうからないビジネスに投資する余裕はなく、慎重に見極めるだろう」とみる。対日関係の悪化で、ロシア側は今後も四島に海外企業を誘致する動きを強めるとみられるが、その行方は見通せない。(渡辺玲男)
国後島ユジノクリーリスク中心部。四島最大の集落だが、なおも開発途上にある(ゴミレフスキー・南クリール地区長のテレグラムより)
国後島ユジノクリーリスクのショッピングセンターに入る中国製日用品店の外観(地元関係者提供)
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