返還運動 進む世代交代 千島連盟副理事長に元島民2世 領土交渉停滞・1世高齢化、継承に難題

 北方領土の元島民らでつくる千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)の29日の総会で、連盟として初めて元島民2世の副理事長2人が選ばれた。ロシアのウクライナ侵攻の影響で日ロ両政府の溝は深まり、同連盟もロシア側に「望ましくない団体」に指定されるなど、北方領土交渉は再開の兆しさえない。元島民の高齢化が進む中、返還要求運動をどう次世代につなぐか。厳しい日ロ関係のはざまで、同連盟にも難題が突きつけられている。(北海道新聞2023/5/30)

 「返還運動を続ける中で、次の世代の若い人が活動しやすい組織にしたい。力を合わせ、島が返るまで頑張らなければならない」。新たに副理事長に選ばれた野潟龍彦氏(71)は、選任後のあいさつで返還運動を元島民(1世)の世代から引き継ぐ重責に触れた。野潟氏は母が国後島出身。同じく新副理事長の鈴木日出男氏(71)は両親が同島出身だ。

■理事8割が2世

 1945年(昭和20年)の終戦時に1万7291人いた元島民は、今年3月末時点で5296人まで減少。平均年齢は87・5歳となった。それに伴い、2世や孫世代の3世など元島民後継者が返還要求運動の中心を担う機会が増えている。

 今回の改選では20人の理事のうち2世が16人と8割を占め、2年前の前回改選時の5割より増加。同連盟の全国15支部のうち、2世が支部長を務める割合も同20ポイント増の73・3%に。千島連盟の会員全体でも、2015年度に2世や3世の数が元島民を上回っている。

 野潟氏は根室市で生まれ育った。30年以上前から返還要求運動に携わり、元島民の故郷や返還にかける強い思いに触れてきた。「元島民がいなくなってからの世代交代では遅い。時間をかけて1世の思いや問題の経緯を知らなければ、なぜ運動をしているか分からなくなる」と取材に語る。

■日ロの対話断絶

 ただ、課題は山積している。ロシアはウクライナ侵攻に対して制裁を発動した日本との平和条約交渉を拒否。今月、広島で行われた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)にウクライナのゼレンスキー大統領が出席したことにも反発を強めているとみられ、日ロの対話は閉ざされたままだ。

 北方領土へのビザなし渡航も、新型コロナウイルス禍とウクライナ侵攻で2020年から途絶えている。鈴木氏は「ビザなし渡航は後継世代が島の様子を目で見て学ぶ場でもあった。それがない中、どうモチベーションを保ちながら返還への思いを引き継ぐか。次の世代に渡すのが私たちの役割だ」と力を込める。

 新理事長には択捉島の元島民である松本侑三氏(81)が選任されたが、高齢を理由に当初は2世を理事長に推す声もあった。ただ、複数の理事から「政府などに陳情する際、島で暮らした経験のある1世の話は、2世とは重みが違う」との声が上がったのが実情だ。

 松本理事長は選任後、記者団に「運動を続けるため、旧ソ連の不法占拠で私たちが何を失ったか、もう一度見つめ直す必要がある」と強調。さらに「後継世代には元島民から島の自然や歴史、生活について学び、全国に北方領土問題を訴えていってほしい」と世代間継承に期待を込めた。(武藤里美)

 

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