【根室】北方領土・貝殻島周辺のコンブ漁が始まった1日、根室市内の漁港に次々と高品質のサオマエコンブが水揚げされ、浜は活気に沸いた。昨年は日ロ民間交渉のずれ込みで出漁も3週間遅れたが、今年は日ロ関係悪化の中でも例年通り出漁でき、コンブの質も良かったためだ。北方領土元島民の父から漁を継いだ3代目のコンブ漁師、本田敏己さん(69)は「歴史ある漁を守れる」と喜びをかみしめた。(北海道新聞根室版2023/6/2)
午前7時、花火とサイレンの合図で根室・納沙布岬周辺から、白波を立てて出発したコンブ漁船204隻。本田さんも船団の一員として3・7キロ先の貝殻島に船を進め、3時間近く、漁具「かぎざお」でサオマエコンブを絡め取った。
午前10時半ごろに市内の温根元漁港に戻った本田さん。「今年は生育が良い」と、船からトラックにコンブを移し干場に運んだ。
貝殻島周辺のサオマエコンブは成長途中のナガコンブで、柔らかさが特徴。だが、昨年はロシアのウクライナ侵攻による日ロ関係悪化で交渉が難航し出漁が3週間遅れ、その特徴が薄れた。「今年はコンブの量も質も良い。天候次第だが、多く出て豊漁にしたい」
心配もあった。今年の漁は5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)が、ロシアに厳しいメッセージを発した直後。この日、貝殻島周辺ではロシア国境警備局の船が巡回し、日本漁船に操業書類の提示を求める臨検もみられた。本田さんは「臨検の数は多くなかった。今年も違反のない安全操業をしたい」と話す。
本田さんの父、故清吉さんは旧ソ連の北方領土侵攻まで水晶島に住み、貝殻島周辺でコンブ漁を営んだ。「日ロ関係は悪化しても、親から引き継いだ貝殻島コンブ漁を守れたことに意味がある」と、漁を続けられた喜びを語った。
貝殻島周辺コンブ漁の日ロ民間協定は1963年、拿捕(だほ)などの混乱を避けるために結ばれた。冷戦期に「平和の海」をつくる取り組みだった。「長い間継続してきた実績があるから、今年の漁がある」。本田さんはそう語った。(先川ひとみ)
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