2025年の完成を目指す道庁赤れんが庁舎の改修工事で、宮城県石巻市雄勝(おがつ)町産の石材を活用して屋根をふき直す作業が進んでいる。雄勝石(いし)は1888年(明治21年)の赤れんが庁舎創建当時から屋根材に使われてきた縁がある。東日本大震災で壊滅的な打撃を受け、一時は生産停止に追い込まれた東北の銘石が、道庁のシンボル再生の一端を担っている。(北海道新聞2023/6/5)
黒くて硬い雄勝石は経年劣化に強い。薄く割ることができるのも特長で長さ30センチ、幅18センチ、厚さ7~10ミリの「スレート」と呼ばれる石板にして屋根にふく。人工素材ではない天然石のスレートは貴重とされ、1枚ずつ重ねるようにくぎで固定する「石盤葺(せきばんぶき)」の技術とともに地域で継承された。明治期以降、東京駅丸の内駅舎をはじめとする洋風建築に多く活用され、道庁赤れんが庁舎の屋根には創建時のほか1968年の復元工事でも使われた。
雄勝町は11年の震災で20メートル近くまで到達した津波に襲われた。山あいの採石場は大きな被害を免れたが市街地の作業場や保管庫が流され、唯一のスレート製造会社も廃業に追い込まれた。
地場産業の灯を消さないよう、すずりなどの工芸品業者らでつくる「雄勝硯(すずり)生産販売協同組合」がスレートづくりを受け継いだ。工芸品などの職人4人に技術を学んでもらい、震災から10年後の21年、再び生産態勢を整えた。
赤れんが庁舎の改修工事はこの間、既に動き始めていた。当初は20年着工、23年完成の予定で、雄勝石の活用は困難とみられた。しかし、21年の東京五輪マラソンの札幌移転が決定。赤れんが庁舎前もコースに組み込まれ、着工が五輪後に先送りされた。これにより雄勝石の生産再開が改修工事に間に合った。
赤れんが庁舎の屋根に必要なスレートは、中央にそびえる「八角塔」を除く部分の約10万枚。改修工事では全てのスレートをはがして点検し、劣化がなければ再利用する。今年3~4月、石巻の職人3人が札幌に入り1枚ずつ確認。10万枚のうち半数強を再利用できる見込みとなった。
道は残る約5万枚のどの程度を雄勝石でふき直せるか費用も踏まえて検討する。賄いきれない分は色が近いカナダ産で補う予定だ。道建築整備課は「文化財のつながりで復興を後押ししたい」と、極力多くの雄勝石を使いたい考えだ。
雄勝石に詳しい東北工業大(仙台市)の大沼正寛教授は「道庁赤れんが庁舎は現存する天然スレートを使った洋風建築で最古。雄勝産が修復に使われる意義は大きい」と注目する。
雄勝石材の再生に向け、地域で活動を続ける雄勝硯生産販売協同組合の山下淳事務局長(65)=石巻市=によると、生産量はまだ震災前の1割程度。山下さんは「赤れんが庁舎の改修に活用されることで、誇れる産業として地元でも語り継ぐことができる」と期待を寄せる。(岩崎あんり)
赤れんが庁舎の屋根から取り外した雄勝石のスレートを金づちでたたき、劣化の有無を確認する職人(道提供)
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