四島交流が対ロ認識に影響 北大スラブ研・岩下教授に聞く 根室はウクライナに「仲裁」「中立」多く

 北大スラブ・ユーラシア研究センターと北海道新聞による、日ロの境界地域の根室(一部根室管内)、稚内両市住民への影響に関するアンケート。実施を企画した同センターの岩下明裕教授に、調査結果について聞いた。(北海道新聞根室版2023/9/22)

 今回の調査によると根室稚内ウクライナ侵攻の影響を感じている人の割合は、全国での別の調査結果よりも多く、両地域でのウクライナ侵攻の影響は甚大と考えられる。ただ、詳細に分析すると地域による違いも見えた。

 根室稚内の両地域ともに、ウクライナ侵攻後のロシアへの関心が「変わった」人は7~8割。そのうち全員がロシアへの印象が悪化したと答えた。

 ただ、根室地域を中心とする北方領土へのビザなし渡航への参加経験者36人に限定すると、関心が「変わった」人は21人と、全体の6割に達しない。ビザなし渡航未経験者147人では、関心が「変わった」が75%にあたる110人となり、渡航の有無により一定の差が出た。

 一方、稚内を中心とするサハリン渡航経験者のうち、関心が変わった人の割合は71%。サハリン渡航を経験していない人でも、関心が変わった人は72%で、サハリン渡航経験はロシアへの関心の変化にほとんど影響を及ぼしていない。

 こうした対ロシア認識の変化の違いには、約30年に渡って続いてきたビザなし渡航により、根室が積み上げてきた人的な交流の影響が大きいと考えられる。

 根室では単にビジネスや観光にとどまらない、まち全体としてのロシア人との顔の見えるつきあいがあった。住民は国と国の関係としては厳しく対峙(たいじ)しなければならないことを理解する一方、境界の向こう側に暮らす普通のロシア人の生活を想像できるようになっている。

 ロシアを制裁する日本政府の立場に対する考え方を聞く質問には、根室では稚内と同様、大多数が支持を選んだ一方、ウクライナでの紛争における日本の役割について根室では「仲裁」「中立的立場」とした人の割合が計42%にのぼり、「ウクライナ支援」の33%を上回った点も注目すべきだ。「ウクライナ支援」が半数を超えた稚内とは違いがみられ、ロシア人と長年付き合ってきた根室からの日本政府に対するメッセージが込められていると受け止められる。

 アンケート結果は、約30年のビザなし交流において根室が対ロシアのゲートウェイ(入り口)として機能してきたこと浮き彫りにしている。日ロ間の壁が現在、再び高くなったとしても、長期間に培われた根室の精神が今も人々を突き動かしていると思う。(聞き手 松本創一)

 

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