【稚内】工藤広市長は休止状態にあるサハリン事務所を来年度以降も維持したい考えを表明したが、ロシアによるウクライナ侵攻が続き、日ロ関係が悪化する中では容易ではない。それでも撤退すれば再開は難しくなるとみられ、識者は維持の重要性を訴えている。(北海道新聞留萌宗谷版2023/9/23)
工藤市長は9月上旬、北海道新聞の取材に「サハリンとのつながりを続けるため事務所は残したい」と述べ、来年度予算案に事務所の維持費などを計上したい考えを示した。
最大の課題は、事務所は残せても現地との実質的なつながりを維持できるかだ。関係者によると、侵攻後に日本政府が対ロ制裁を始めてから、サハリン州内の行政機関は日本への態度を硬化。稚内市が協力を得るのも困難になっている。
8月には、2019年からサハリン事務所長を務め、現地の人脈を築いてきた市職員の三谷将氏が退職。サハリン交流の方向性を巡り、工藤市長と考え方が合わなかったことが背景にあるとみられている。侵攻により現地への渡航も難しくなっており、現地との人的なつながりを保つには多くのハードルを乗り越える必要がありそうだ。
日米欧がロシアの大手銀行を国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から排除する中、賃料などの維持費をどう送金し続けるかや、業務が休止する状況で現地スタッフをつなぎ留められるかという課題もある。
北大スラブ・ユーラシア研究センターの岩下明裕教授は「サハリンの人たちは、日本が非友好国でも稚内は隣同士だから交流したいと思っている。1回撤退したら再開は困難になり、相手にマイナスのシグナルを送ることにもなるので、課題は多くとも関係を絶やさないことが重要だ」と指摘している。(河相宏史)
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