北方領土の観光地化が加速している。実効支配するロシアが宿泊施設などを次々と建設し、ウクライナ侵略後に距離を縮める中国からの観光客も増えているという。コロナ禍や日露の関係悪化で「ビザなし交流」が途絶えて4年。元島民らも行き来ができないうちに、島の姿が変容している。(読売新聞デジタル2023/11/25)
スポーツバーに改装された「友好の家」の食堂(シリエンコフ氏提供)
日本人と北方領土に住むロシア人が旅券・査証(ビザ)なしで相互訪問するビザなし交流の中心拠点で、日本の訪問団の宿泊先だった国後島の「友好の家」。日本政府が4億円超の資金を出し、1999年に完成させた。当時、衆院議員だった鈴木宗男参院議員の秘書による入札妨害事件の舞台となったことで、「ムネオハウス」とも呼ばれた。
この施設もウクライナ侵略後、ロシア公営企業による営利転用が進む。昨年末には、施設の一角に10台余りのスクリーンが並ぶスポーツバーがオープン。電話取材に応じた公営企業のロマン・シリエンコフ取締役は「観光客のニーズに応えた」と説明した。
日本人が訪れなくなって4年がたつ「友好の家」(シリエンコフ氏提供)
ロシアの極東・北極圏発展公社によると、火山や湖など雄大な自然を誇るクリル諸島(北方領土を含む千島列島)への観光客は2022年に5万人を超え、20年の2・5倍に達した。ロシア政府が進める極東開発を背景に、ロシア本土からの来訪が増えた。来月上旬には、ロシアの「オーロラ航空」が政府の補助金を受け、ウラジオストクと択捉島を結ぶ旅客便の運航を始める。
択捉島ではホテルや温泉施設が続々と建設されている。島内で韓国料理店を営むオレーク・シュミーヒンさん(57)は「ロシア人以外で増加が顕著なのは中国人観光客。中国からの団体ツアーは増える一方だろう」と期待する。国後島の観光ガイドの女性(55)も、今年だけで島内に3軒の宿泊施設が建ち、中国人の利用が増えていると話した。
こうした動きについて、在モスクワ日本大使館に勤務経験のある元外交官の亀山陽司氏は「西側諸国を訪れにくくなったロシア人が北方領土観光に流れている。地方の発展と国内世論のためにも、プーチン政権は開発をさらに進めるだろう」と分析。「友好の家」の営利転用については「人道支援や交流のために贈った施設であり、目的外使用だが、施設が放置されて将来的に使えなくなるよりは、維持費捻出のための転用も認めざるを得ない」と話す。
日本の外務省は「北方4島でのロシア政府の動向は常に注視している」と説明。択捉島への旅客便就航にロシア政府が関与しているとして、「日本の立場として受け入れられない」とロシア側に伝えたという。
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