「ビザなし渡航すらできない今、北方領土への関心を高めなければ、運動は先細りしていく」。国後島元島民の古林貞夫さん(85)は、そんな思いから、12月1日に東京都内で開かれる毎年恒例の啓発活動「北方領土返還要求中央アピール行動」に昨年に続き参加する。「北方領土を返せ」といったかけ声とともに、東京・銀座周辺1・6キロを歩く予定だ。(北海道新聞根室版2023/11/29)
4年ぶりに参加した昨年、銀座の沿道には北方領土返還運動に無関心な人の存在を感じた。日ロ間の交渉が停滞する中、「返還運動は正念場」と考えていただけに、悔しい気持ちもあった。今年10月に根室市内を訪れた自見英子沖縄北方・アイヌ施策担当相にはそんな気持ちを込め、こう訴えた。「北方領土問題は国家の問題。もっと国を挙げて返還運動を盛り上げてしかるべきではないか」
今年はビザなし渡航の中断が続くことから、かけ声の一つに「北方領土墓参の早期再開」が加わる。古林さんは「これまでは訴えなくても墓参はできた。それを主張せざるを得ないとは」と、ロ間の関係悪化による影響に、もどかしさを隠さない。
国後島から樺太を経由し、函館へ強制送還されてから76年。1950年に根室に移り、85歳の今もホッキ漁などに従事する現役漁師だ。自身は銀座の街を歩く体力に不安はないが、元島民の平均年齢は88歳。足腰の不安から行進参加を見送る元島民の仲間は増えている。それでも古林さんは「『古里に帰りたい気持ちは抑えられない』という姿は、高齢化した今だからこそ見せられる。沿道で何かを感じてほしい」と語る。
「大学生の孫と一緒に古里へ行き、当時の記憶を伝えるのが夢」と語る。ロシアのウクライナ侵攻後、その実現が遠のいている状況を理解しながらも、いちるの希望を信じて師走の東京で声を張り上げるつもりだ。(川口大地)
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