北方領土の元島民らでつくる千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟、札幌)の松本侑三理事長(82)=択捉島出身=らが14日、首相官邸を訪れ、岸田文雄首相に北方領土への墓参や返還交渉の早期再開を要請した。首相は領土問題解決を目指す方針を改めて示したが、ロシアのウクライナ侵攻が続く中、今後の展望については触れなかった。強硬姿勢を崩さないプーチン大統領の5期目が始まり、元島民からは「もう時間がない」と焦りの声が漏れた。(北海道新聞2024/5/15)
「四島交流事業の再開を心待ちにする元島民の切実な声を総理にお伝えしたい」。松本氏や根室管内1市4町の首長らと官邸を訪れた鈴木直道知事は、首相との面会の冒頭でこう訴えた。
首相は「領土問題が解決されず、平和条約が締結されていない現実を強く遺憾に思う」と表明。政府として墓参再開に重点的に取り組むとする従来の立場の説明にとどまった。
道や千島連盟が手渡した要望書では、来年の戦後80年に向け国民世論の一層の喚起に向けた取り組みなども要請。首相は北方四島との往来のためのチャーター船「えとぴりか」の啓発事業への活用に政府として取り組む姿勢などを強調し、理解を求めた。
「元島民の方々の思いにしっかり応える」。首相は面会でこう強調したものの、官邸関係者は「ウクライナ侵攻下で絶対に日ロは動かない。官邸内で北方領土問題はほとんど話題になっていない」と打ち明ける。この日の首相との面会時間は昨年より約10分短い約20分間。出席者の一人は「今年は短かった」と、政府の対応に肩を落とした。
元島民の平均年齢は今年3月末時点で88.5歳となり高齢化が進む。大統領選で5選を果たしたプーチン氏が7日に2030年までの6年間の任期をスタートし、「元島民に残された時間はあと数年しかない」(返還運動関係者)と危機感は強まる。
ウクライナ侵攻を続けるロシアとの対話の難しさは理解しながらも、政府や世論の関心自体が薄れていくことに元島民は焦りを募らせる。首相との面会後、松本氏は記者団を前に険しい表情で訴えた。「政府には領土交渉の具体的な展望を示し、解決に向けた糸口をつかんでほしい。一歩でも島に近づきたいというのが元島民の思いだ」
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