水から煮て濃い褐色の殻が深紅に変わった花咲ガニが入った鍋に、みそを加えて万能ネギを散らす。シンプルだが濃厚なだしが至福の時を生み出す、根室を代表する汁物だ。単品450円で提供している根室市本町2「居酒屋福笑(ふくしょう)」店主の真井雅道(まいまさみち)さん(59)は「地元の人は食べ慣れているので、注文するのはほとんどが観光客」と苦笑する。(北海道新聞デジタル2023/12/27)
水から煮て花咲ガニのだしを味わう鉄砲汁
根室で生まれ育ったカニ販売大手マルナカイチ杉山水産社長の島孝治さん(62)は「ズワイやタラバも扱っているが、メインは花咲ガニ。濃厚な味わいが特徴で、もっとだしを取るにしても昆布1枚あればよい」と誇らしげだ。
「鉄砲」という名は、足の身を食べようと箸でつつく様子が、昔の鉄砲の銃身を掃除する姿に似ていることに由来するという説が有力だ。ただし、「良いだしをとるためにはボイルせずに冷凍したものを使うが、身がパラパラとフレーク状になるので身はさほど味わえるものではない」(島さん)。逆に先にボイルしたものは身を一体で味わえるが、汁物にした時のだしの濃厚さは期待できないという。
花咲ガニは、カムチャツカ、サハリン、千島列島などの周辺海域、国内では根室から襟裳岬までの沿岸に生息している。根室市水産研究所所長の工藤良二さん(53)は「春先から6月にかけて深場から沿岸の浅瀬に移動して繁殖する。根室沿岸は岩礁地帯が多く、水温も繁殖に適している」と解説する。「昆布が多い場所でとれるので『昆布ガニ』とも呼ばれています」
資源保護のため根室市内各漁協の漁期は繁殖期を過ぎた7~9月の3カ月間に限られる。漁期外はロシアからの輸入物なども流通する。昨年の根室管内水揚げは100・4トンで、4年ぶりに100トンを超えた。工藤さんは「稚ガニ放流や、資源データの解析により、年150トンへの回復を目指したい」と訴える。
「食べ慣れて」いても水揚げ量を気にせざるをえない。根室を代表する味・花咲ガニへの思いは輻輳(ふくそう)している。
水揚げされたばかりの花咲ガニは濃い褐色をしている
<取材を終えて>
彩りに加え、カニを煮出しただけとは思えないほどの芳醇(ほうじゅん)さに食欲がそそられ、ご飯、あるいはビールがほしくなった。「パラパラになる」(マルナカイチ杉山水産社長の島さん)のは分かっていても、カニの身を取り出してみたくなったのは言うまでもない。(編集委員 弓場敬夫)
■レシピ
居酒屋福笑店主の真井雅道さんに、同店で提供し家庭でも作ることができる鉄砲汁のレシピを聞いた。
◇材料(わん1杯分)
花咲ガニ(汁物用にカットされ生のまま冷凍されたもの)100グラム、みそ適量、酒少々、万能ネギ適量
◇作り方
《1》万能ネギはみじん切りにする。
《2》花咲ガニを鍋に入れてから水200ccを注ぎ、中火でカニの殻が赤くなるまで煮立てる=写真=。
《3》弱火にして、みそを適量加える。
《4》味見をして、味が薄い場合はみそを、風味を増したい場合は酒少々を加える。
《5》わんに盛って、《1》の刻んだ万能ネギを散らす。
花咲ガニを鍋に入れてから水200ccを注ぎ、中火でカニの殻が赤くなるまで煮立てる
◇メモ
大量に作る場合には、水だけでなくだしを取るための昆布を入れる。花咲ガニが手に入らなければ、ズワイガニや毛ガニでもよいが、花咲ガニほどだしが出ないので、昆布などを使って調整する。
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