昨年12月1日の東京・新宿駅。北方領土返還中央アピールの催しで聴衆に語りかける和服の男性がいた。(北海道新聞根室版2024/2/3)
「えー、北方領土の話の台本をパソコンで書くと、文字化けが起きてしまうことがある。なぜでしょう」。首をかしげる聴衆を前にこう返し、笑いを取る。「領土もパソコンも『ヘンカン』が大事だからです」
根室出身の落語家・三遊亭金八=本名・木村吉伸=さん(53)。歯舞群島・志発島の元島民2世で、四島を題材に話芸を披露する。
毎年、12月1日は新宿駅で落語を披露していたが、昨年は趣向を変え「辻噺(ばなし)」に。立ち上がって北方領土産の大きなホタテ貝を見せ海の豊かさを伝えたり、地図を示して北方領土と根室の近さを語りかけたりした。「型にはめた落語より、自由に語れる辻話の方がウケると考えまして」
1989年に根室高を卒業、1年ほど根室市内で働いた後、四代目三遊亭金馬に入門。2002年真打ちに昇進した。
それまで領土問題を強くは意識しなかったが、真打ち昇進と同じ年にビザなし渡航の自由訪問で父の木村芳勝さんと志発島を訪れたことが転機になった。
故郷の地・相泊への再来に高揚する父や元島民たち。旧宅周辺は原野になっていたが、住居跡の近くに戸袋のレールを見つけた。「島を訪れ、自分のルーツを確認したことで北方領土の話題を芸の中に組み込むようになった」。北方領土の話題を、明るく楽しく伝え始めたきっかけだ。
新型コロナウイルス対策とロシアによるウクライナ侵攻の影響でビザなし渡航の中止は4年間続き、この先も見通しが無い。「島に行くことこそ、元島民の心を引き継ぐ重要な糧」と復活を強く願う。
ビザなし渡航で訪れた四島でロシア人に日本の芸能を伝えたこともある。「いつか北方領土でロシア語を交えた落語を日本人とロシア人の前で披露してみたいね」と語る。(松本創一)
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