ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、国内有数のロシア向け中古車輸出拠点、小樽港が揺れている。日本車の中古車需要増に伴い、昨年の同港の対ロ中古乗用車輸出額は130億円と同港からの輸出額全体の約7割を占めた。だが、日本政府は8月9日、ロシアへの追加制裁として中古車輸出を大幅に規制。小樽市内の輸出業者は甚大な影響を受け始めており「いずれロシアとの貨物船の行き来も途絶える」と不安を強める。(北海道新聞2023/9/10)
小樽で20年ほど前から中古車輸出を手がけてきた「ミナストレーディング」は、地理的に近いロシア極東のサハリン州や沿海地方を主要な取引先にしてきた。パキスタン出身の猪鼻昭貴(いのはなしょうき)ミナス社長は「ロシアへの輸出はほぼゼロになった。これからどうなるのか」と嘆く。
■侵攻で需要増
ウクライナ侵攻を続けるロシアに対する追加制裁として、日本政府が8月から新たに規制したのは、ロシアで人気が高い中古の日本車を含む自動車。排気量1900ccを超える乗用車のほか、ハイブリッド車などが幅広く対象となった。
ミナストレーディングがロシア向けに輸出していた中古車も、大半は規制対象になった。猪鼻社長は「今後はアフリカへの輸出に力を入れる」と話すが、遠いアフリカに小樽港から向かう貨物船はない。国内の別の港から輸出することにもなるため「輸送コストは10倍以上になる」という。
小樽港からロシアへの中古乗用車輸出額は近年、同港の輸出全体の4割前後を占めていたが、22年は全体の69%に上昇した。昨年2月に始まったウクライナ侵攻の影響で、日本の自動車メーカーが新車の現地生産や輸出を停止し、ロシア国内での日本車の中古車需要が急増したからだ。
財務省の貿易統計によると、22年の小樽港からの中古車の輸出台数は前年比2・4倍の8751台、輸出額は同4・7倍の130億円で港別で全国5位に。今年の輸出額も7月までに69億円に達し、サハリンや極東ウラジオストク、ナホトカとの貨物船の直航便が毎週のように往来していた。
■タイヤも対象
追加制裁の対象は中古車だけでなく、タイヤなどにも及ぶ。ロシアにタイヤを輸出してきた「小樽運河オート」の藤井康社長は「今は別の製品を輸出しているが、いずれ全てのロシア向け輸出が禁止になるのでは」と不安を隠さない。
複数の輸出業者や港湾関係者によると、ロシア向けに中古車を運ぶ際、貨物船の空いた空間に衣類や医薬品、日用品などを積んで輸出していたという。特にサハリンには、片道1~2日という近さを生かして肉や果物など生鮮食品も送っていた。「中古車の輸出が先細れば、貨物船の行き来も途絶える恐れがある」と話す業者は多い。
港を管理する小樽市港湾室は「制裁はやむを得ないが、市の経済にとって大きなダメージにもなる。どのような影響が出るか見極めて対応したい」としている。(武藤里美)
コメント