ロシア、愛国教育を強化 新しい歴史教科書導入 ウクライナ侵攻正当化、対日戦に焦点

 ロシア政府は、9月1日に始まる新学期から全国統一の新しい歴史教科書を導入し、愛国教育を強化する。ロシアメディアによると、昨年2月に開始したウクライナでの「特別軍事作戦」に関する章を設け、第2次世界大戦末期に旧ソ連北方領土を実効支配した対日戦勝の歴史にも焦点を当てている。若者世代にロシアの侵攻の正当性やプーチン政権の歴史観を植え付ける狙いで、北方領土問題にも影を落としそうだ。(北海道新聞2023/9/1)

 導入されるのは、日本の高校生に当たる10、11年生が使用する近現代のロシア史と世界史の教科書。新しい歴史教科書はロシアで初の国定教科書として、ロシア軍事歴史協会会長のメディンスキー大統領補佐官らが執筆に参加した。

 国営ロシア通信によると、クラフツォフ教育相は、新しい歴史教科書について「クリール諸島(北方領土と千島列島)の解放は独立した項目が割かれている」と指摘。従来の教科書に比べ、旧ソ連軍の対日参戦に関する記述を増やしたとみられる。

 日本政府は、旧ソ連軍は日ソ中立条約を無視して北方四島を不法に占拠したとして返還を求めているが、ロシア政府は、旧ソ連の対日参戦は日本の支配からアジアを解放し、四島領有は「大戦の結果」だと主張。ロシアでは今年6月、9月3日を「軍国主義日本に対する勝利と第2次世界大戦終結の日」と改称する法案も成立しており、新たな教科書で侵攻や四島領有の正当性を改めて強調する狙いがありそうだ。

 ロシア紙エルベカによると、ウクライナ侵攻を巡っては、ロシア系住民が多いウクライナ東部ドンバス地域の保護とロシアの安全の保証が目的だと正当化。ロシア国内の不安定化を狙っている西側諸国が「ウクライナ政権に資金と武器を注ぎ込み、ロシアに対して違法な制裁を科した」と非難。「ロシアは英雄の国」と称賛するなど、プーチン大統領の主張を反映した内容になっている。

 クラフツォフ氏は7日の記者会見で「学校で信頼できる事実を教えることは非常に重要だ」と述べたが、英BBCは「これは歴史ではなく、政治宣伝だ」とする欧州の歴史学者の見方を伝えた。

 ロシア政府は1年以内に5~9年生用の歴史教科書も完成させる方針。2025年末までに全科目で国定教科書を導入する計画も示しており、教育面でもプーチン政権の統制を強める方針だ。(本紙取材班)

 

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