北海道根室市の元国後島民2、3世親子が北方領土問題に取り組んでいる。マッサージ師久保浩昭さん(55)はかつて根室と島をつないだ通信用海底ケーブルの陸上施設保存を通じて「日本固有の領土」をPR。息子の歩夢さん(18)も「ユーチューブ」で領土に関する発信を始めた。日ロ間の交渉は膠着しているが、浩昭さんは「世代ごとのやり方で返還運動を盛り上げたい」と語る。(北海道新聞ウエブ版2023/8/16)
市などによると、「根室国後間海底電信線陸揚施設」(陸揚庫)は1900年ごろ、択捉、国後両島との連絡手段として整備された。現存の施設は35年ごろ建てられたといい、国後島ケラムイまでケーブルでつないだ。
「透き通る海にかごを仕掛けたらエビが1匹、また1匹…。気づいたら大漁さ」。父幸雄さん(88)から出身地であるケラムイの話を聞いて育った浩昭さんは、高校2年の時、海岸沿いで古びた建物を見つけた。陸揚庫と分かり「やっぱり島はすごく近い場所なんだ」と実感。93年ごろから保存活動を始めた。
海底に残るケーブルを使って作った模擬電話やマイクを博物館に寄付するなどの活動が実り、2021年、国の登録有形文化財に指定された。老朽化が問題で、市の専門家会議はガラスで覆って保存する方針を示す。浩昭さんは「元島民がどんどん減っていく中、史跡を残せて満足」と話す。
歩夢さんは19年、ビザなし交流で択捉島を訪れたのを機に、領土問題に取り組み始めた。今年に入り、根室海峡を挟んで国後島を望む羅臼町から根室市まで、自転車で領土関連の施設を巡りながら約150キロを走破。啓発になればと動画をユーチューブに投稿した。4月から札幌市の専門学校に進んだが、今後も活動を続けるつもりだ。
ウクライナ侵攻を受けて日ロ関係は冷え込み、返還に向けた協議は見通せないが、浩昭さんは歩夢さんの活動に「心強い」と目を細め、「若者に思いを継いでもらって、運動を存続させることが大事」と力を込めた。
ビザなし交流で父の幸雄さん(左)と国後島ケラムイを訪れた久保浩昭さん=2014年8月(本人提供)
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