色丹湾内、汚染深刻化 水産加工場の規模拡大影響か 島民不満、州政府に訴え

 北方領土色丹島で、水産加工場の廃液が原因とみられる海の汚染が深刻化している。北方四島を事実上管轄するサハリン州政府に対し6月下旬、ロシア人島民が対処を求める請願書を提出。汚染は長年問題視されてきたが、近年、加工場の規模が拡大していることも影響しているとみられる。地方政府が、島の経済を支える水産企業に強く臨む姿勢は見えず、住民から不満の声が出ている。(北海道新聞2023/7/16)

 「海岸は悪臭がする。工場からの廃液でベタベタしている」。サハリンのネットメディア「シティーサフ」は7月上旬、斜古丹(マロクリーリスコエ)湾の汚染について、島民の不満の声や、州政府が請願書を受理したことを伝えた。

 汚染の原因とされるのは、斜古丹湾に面し、缶詰やすり身を製造する水産企業「オストロブノイ」の大規模加工場。近くに魚粉などを製造する新施設の建設も進められている。

 周辺住民らは、部分的に稼働を始めた新施設を含めて、加工場に廃棄物の適切な処理設備がないと主張。魚の脂などが湾内に垂れ流されているといい、6月ごろから通信アプリ「テレグラム」の個人チャンネルには、薄茶色のヘドロのようなもので覆われた海岸の写真が多く投稿されている。

 斜古丹では旧ソ連時代から複数の加工場が整備され、1994年の北海道東方沖地震で被災後も再建された。2017年にはロシア政府が、税の優遇措置が受けられる経済特区色丹島に設定し、オストロブノイが施設の拡充を進めてきた。

 四島関係者によると、色丹島では毎年、荒天が少ない夏になると湾に汚染物質がとどまりやすくなる。20年にはオストロブノイが汚染調査を約束したが、結果はうやむやのままという。

 色丹島のもう一つの集落、穴澗(クラボザボツコエ)でも、水産建設企業「ギドロストロイ」が99年から水産加工場を経営。19年には当時「ロシア最大規模」とされた新施設も稼働させ、斜古丹と同様に汚染問題が指摘されている。

 問題が放置される背景には、産業が少ない四島では、水産加工場が経済を下支えしていることも影響している。国後、色丹の両島を管轄する南クリール地区行政府によると、両島の総人口の約2割に当たる2千人が水産関係に従事し、ある島民は「多くの人は問題を大きくして職を失うことが怖い」と明かす。

 地元メディアによると、州政府は過去にも多くの訴えがあったことを認めるが、「監督は連邦政府の管轄だ」とし、島民からの請願書を極東ウラジオストクにある連邦政府機関に転送。島民の一人は「遠く離れた小さい島のことはいつも後回しだ」と嘆いた。(本紙取材班)

 

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