北方領土の元島民らによる「洋上慰霊」について、鈴木直道知事が昨年に続き今年も実施する方針を示し、根室管内の関係者からは「北方領土墓参が見込めず残念だが、次善の策として島の近くで慰霊できるのはうれしい」と安堵(あんど)が広がった。一方、昨年は悪天候で沖合まで航行できない例もあったことから、改善を求める声も出ている。(北海道新聞根室版2023/6/29)
「今年も洋上慰霊ができるのかずっと気にかけていたので、実施の見通しが発表され、ほっとした」。北方領土の元島民らの千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟、札幌)根室支部長の角鹿泰司さん(86)=歯舞群島勇留島出身=は声を弾ませた。
日ロ関係の改善が見込めずビザなし渡航が実施困難な状況が続く中、「せめて洋上慰霊は行ってほしい」との元島民らの声は根強く、13日には千島連盟などが「北方四島墓参ができない場合の洋上慰霊の実施」への支援を岸田文雄首相に要望していた。角鹿さんは「墓参を諦めるわけではないが、島に向かって手を合わせられることに意義がある」と力を込めた。
千島連盟の副理事長で羅臼支部長の鈴木日出男さん(71)=国後島元島民2世=も「四島に上陸し、墓前で手を合わせたいと要望してきた。それができない状況で洋上慰霊が実施されるのであれば、元島民の思いに応えられるもので、ありがたい」と語った。
ただ、昨年は7~8月にかけて計10回行ったうち、天候不順で2回は出港を取りやめ、1回は途中で引き返した。船から島を望めない参加者も多く、課題が残った。今年の洋上慰霊については根室周辺は秋口のほうが天候が安定するため秋口への変更を求める声は多く、知事は今年は8月下旬から9月下旬にかけて実施予定だと明らかにした。
千島連盟根室支部副支部長の法月信幸さん(65)=国後島元島民2世=は「悪天候で出港できない場合は振替日を設定するなど、より多くの参加者が島影を見られるよう日程を調整してほしい」と期待する。
元島民の平均年齢が87・5歳に達する中での要望も。鈴木さんは遠方から根室までのバスの手配、法月さんは、返還運動の後継者育成の観点から若い世代の参加を求めた。(川口大地、小野田伝治郎)
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