国後でサケ増殖復活 ソ連占領下で途絶 採卵・ふ化・放流のサイクル軌道に

 ロシアが実効支配する北方領土国後島で、サケの増殖事業が復活している。国後島では日本統治時代に盛んに取り組まれ、旧ソ連の占領後に途絶えたとされるが、ロシアの地元水産会社が5年前に約70年ぶりに稚魚を放流。回帰した成魚から採卵・ふ化させ、今年5月下旬に再び稚魚を放流し、一連の増殖サイクルが回り始めた。ロシア政府は、経済や雇用の活性化を狙い、北方四島での増殖事業の拡大を目指している。(北海道新聞2023/6/11)

 「国後島で魚の増殖が可能だと証明した」。国後、色丹両島などを管轄するサハリン州南クリール地区行政府のゴミレフスキー地区長は5月24日、自身の通信アプリ「テレグラム」に誇らしげに投稿した。

 ゴミレフスキー氏によると、地元水産会社が同22日に同島中部の西岸にあるラグンノエ湖にサケの稚魚を放流。地元メディアによると、同社は18年に、湖に流れ込む川に同島で1947年以来となる稚魚の放流を行い、22年以降、回帰した成魚を40トン捕獲し、約850万個の卵からふ化させた。その後、湖に設置したいけすで約3カ月間成育した上で放流したという。

 サケ・マス漁業で栄えた四島の増殖事業の歴史は古い。本格的には1890年(明治23年)、豪商・栖原角兵衛が、択捉島北部トウロ沼湖畔にふ化場を開業したのが始まりとされる。「北海道鮭鱒ふ化放流事業百年史統計編」によると、終戦前年の1944年(昭和19年)には、択捉島で10カ所、国後島で7カ所のサケふ化場が稼働。ただ、旧ソ連の占領後まもなく、択捉島の数カ所を残して廃止されたとみられる。

 択捉島では、民間企業を中心に増殖事業が広く行われており、連邦漁業庁の今年3月時点の資料によると、島内に20カ所のふ化場がある。国後島には、ここ数年で2カ所が整備され、3月中旬に島を視察した州政府幹部は「さらに2カ所増えるだろう」と語った。

 北太平洋海域の資源量は近年低下が指摘され、堅調な漁獲量だったロシアも20年以降は減少。漁業庁の統計では四島では19年の2万6500トンが、22年に9千トンまで落ち込んだ。

 サケの漁獲量の維持は島の経済の支えになるほか、州政府によると、択捉島で昨秋に開業したふ化場に10人以上のスタッフが採用されるなど、雇用創出の効果もある。国営メディアはロシアが既に色丹島での適地調査も終えたと伝えており、今後も事業拡大が続くとみられる。(本紙取材班)

 

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