北方領土元島民 侵攻の悲惨さ切々と 根室の語り部、ウクライナに思い重ね「故郷追われる体験同じ」

 ロシアによるウクライナ侵攻を受け、根室地域の北方領土元島民らが、自らの体験を伝える「語り部」としての講演の際、ウクライナ住民の悲惨な実態を踏まえて語るようになっている。住み慣れた故郷を追われた記憶を重ね、旧ソ連侵攻の悲惨さを切々と語る。対話の継続を意識して、国同士の対立の中でも相互理解も必要だと訴えるなど、試行錯誤も続いている。(北海道新聞2022/11/21)

 「強制送還の途中、樺太の収容所では寒さと飢えで幼い子やお年寄りが次々亡くなった。人間的な扱いではなかった」。根室市内で10日にあった中学生向け講演。語り部択捉島出身の鈴木咲子さん(83)=根室市=はウクライナ情勢を念頭に、50分のうち、半分近い20分を1945年(昭和20年)に始まった旧ソ連占領下の暮らしに関する話に充てた。

 ウクライナ侵攻後、鈴木さんは、こうした旧ソ連占領下の厳しさを、より思いを込めて語るようになった。その分、日ロ平和条約交渉への期待などの話題を減らした。「故郷を追われるのは77年前の北方領土も現在のウクライナも同じ。四島の体験は過去の出来事ではないと考えた」と語る。

 200回以上、語り部として活動した経験がある色丹島出身の得能宏さん(88)=根室市=も、旧ソ連北方領土占領とロシアのウクライナ侵攻を関連づけて話す機会が増えた。

 ただ、ビザなし渡航でロシア人島民と交流した経験から、ロシアの中央政治と島民の考えは異なることや、色丹島で暮らすロシア人が今年も、日本人墓地を清掃していることなども紹介。「戦争を好むロシア人は少ないはず。一人一人は悪い人でない」などと語る。

 得能さんは「民間人が互いに敵対視すれば、将来の対話の妨げになるかもしれない。今こそ、ロシア人島民と築いた友情は大切だと伝えたい」と力を込める。

 故郷の四島返還に向け、自らの思いをどんな言葉で紡ぐか。元島民たちは、ウクライナの市民たちを気遣いつつ、語り続ける。(武藤里美)

<ことば>北方領土語り部活動 北方領土の元島民や2、3世が、四島での暮らしや旧ソ連の侵攻などの記憶を全国各地で語り継ぐ事業。千島歯舞諸島居住者連盟(札幌)には計115人が登録している。新型コロナウイルスの感染拡大前の2019年度は211回の講演を行った。コロナ流行後は減少していたが、現在は回復傾向にある。

 

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