ウクライナ侵攻半年、日ロ交流自主規制 文学展お蔵入り、店頭から民芸品撤去

 ロシアのウクライナ侵攻開始から24日で半年がたつ中、日ロ交流の一大拠点となってきた道内でロシアとの交わりが途絶えつつある。世論の対ロ感情の悪化が背景にあり、札幌大教授らが春に企画したロシア文学のパネル展は今も開催のめどが立っていない。自治体間の付き合いも止まったままで、サハリン州と関係の深い稚内市では土産物店がロシアゆかりの品の扱いをやめた。交流が「タブー視」されているとも言える状況に専門家は「過剰な自主規制は社会をさらに息苦しくする」と懸念を示す。

 チェーホフドストエフスキーらロシアの文豪の肖像パネルが札幌大構内の一室にひっそりと保管されている。3月中旬、JR札幌駅近くの書店を会場にした展示で使われるはずのものだった。「お蔵入りかな」。ゼミ生4人とともに企画した岩本和久教授(ロシア文学)はつぶやいた。

 長引くコロナ禍を受け、ロシアの作家が感染症をどう描いたかを紹介する内容で、主催者は岩本教授が代表を務めていた札幌大ロシア文化センター。トラブルを懸念した大学側の要請で開催2日前に延期を決めた。

■見解なお平行線

 それから5カ月半。岩本教授は事実上の中止と受け止めているといい「ロシアだから何でも悪いという構図を大学がつくるべきではない」と話す。大学側は取材に「差別を助長するとは考えておらずその意図もない。当時の判断に間違いはなかった」と回答。双方の見解はすれ違ったままだ。

 道内では都道府県別で最多の16自治体がロシアの自治体と姉妹・友好都市提携を結んでいるが、現在は交流が停滞。今年、サハリン州ポロナイスク市と友好都市提携50周年を迎える北見市の担当者は「7月に記念事業を予定していたがポロナイスク側の意向が分からず、中止か延期かの判断もできない」と悩む。

 同州の3市と友好都市交流を続けてきた稚内市では、一部の土産物店がロシア民芸品を店頭から一斉撤去するなど民間の事業にも影響が出ている。店は取材に応じず明確な理由は分からない。同市国際交流課の三谷将課長は「今の情勢では『事を荒立てたくない』というのが市民の本音だ」と推し量る。ロシア関係の事業を手掛ける別の道内企業幹部も「ロシアとの商売がネットで知れ渡ればどんな批判が来るか分からない」と苦しい胸の内を明かす。

■高まる同調圧力

 「世間学」を研究する評論家の九州工業大の佐藤直樹名誉教授は「非常時には『空気を読め』という同調圧力が一気に噴き出し、市民が市民をたたく。コロナ禍でその風潮が広がり、ウクライナ侵攻で拍車がかかった」と指摘。「自らを過剰に規制する社会は言論や表現の自由の萎縮を招く」と懸念する。

 北方領土交渉が停滞しビザなし渡航も再開が見通せないなど政府レベルの関係が悪化し、北海道新聞社の5月の世論調査では日ロ関係について「悪い」との回答が8割に上った。

 草の根の交流もなくなれば不信の連鎖が強まりかねず、道東で貿易の仕事をしているロシア出身の男性会社員(30)は取材に「国の政治と個人を同じように見ないでほしい。ウクライナのニュースを見るとつらく、すぐにチャンネルを変える。戦争が早く終わってほしいと願うロシア人がいることも分かってほしい」と話した。(伊藤駿、村上辰徳)

 

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