洋上慰霊、全10回終了 千島連盟 元島民ら299人参加

 北方領土の元島民らによる根室港発着の洋上慰霊が10日、全10回の日程を終了した。ロシアのウクライナ侵攻による日ロ関係悪化でビザなし渡航の再開が見通せない中、計299人が参加し洋上から故郷の島に思いをはせた。(北海道新聞2022/8/11)

 最終日の10日は元島民やその子孫ら33人がチャーター船「えとぴりか」(1124トン)に乗り、国後島を望む日ロ中間ラインの手前で慰霊式を行った。

 洋上慰霊は、ウクライナ情勢の影響で墓参を含む北方四島へのビザなし渡航が難しくなったことを受け、道と千島歯舞諸島居住者連盟が実施。7月23日に始まり、全10回の日程のうち7回は予定通り行ったが、悪天候で2回出航できず1回は短縮ルートにした。

 鈴木直道知事は9日の記者会見で「洋上慰霊は墓参の代わりではない」と述べ、ビザなし渡航の中断が今後も常態化しないようけん制。「元島民の方は島に渡っての慰霊、北方四島の交流等事業(ビザなし渡航)を切望している。早期再開を国に求めたい」と話した。

■ひ孫ら「いつか島の土踏みたい」

 北方領土ビザなし渡航の見送りを受けて10日まで行われた洋上慰霊。主催の道と千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)は、従来のビザなし渡航には参加が難しかった孫世代の3世、ひ孫の4世にも広く開放した。参加した若い世代は祖父母らの故郷へ手を合わせ「いつか私たちも島の土を踏んで慰霊したい」と思いを新たにしていた。

 従来の自由訪問や墓参では日ロ合意に基づき、対象者を元島民とその配偶者や2世、四島に親族の墓地がある人などに限定。2年前の航空機を使った上空慰霊もこの枠組みに従った。

 今回は参加枠の拡大を求める声を受け、「若い世代が北方領土に関わるきっかけになってほしい」(千島連盟)と3、4世への制限をなくした。10日間の参加者計299人のうち3世が20人、4世が7人だった。

 10日の洋上慰霊には、元島民3世の2人が参加。祖父母が国後島出身の小野和博さん(46)=埼玉県=は「故郷が目に見えるのに行けないもどかしさを実感した。元島民の島への思いは3世、4世と引き継がないといけない」と話した。

 曽祖父母が国後島出身で、7月25日の洋上慰霊に加わった上野颯也さん(20)=札幌市=は、元島民が船上で故郷を懐かしんだり、島に降り立てない無念さを嘆いたりする姿を目の当たりにしたという。「ビザなし渡航が再開したら、家族の島、国後島の土を踏みしめたい」と力を込めた。

 日ロ関係の悪化で先が見通せないビザなし渡航。千島連盟は再開時には参加対象の拡大を改めて政府に要請する方針だ。(武藤里美

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曽祖父母と撮った写真を持って乗船した上野颯也さん。「2人とも島に帰りたかったんだろうな、と感じた」

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