「ロシアがウクライナと戦争しています。私ら元島民や後継者は当面、北方領土へ渡る手段がなくなっているんです」
6月2日、黒部市の県北方領土史料室。元島民2世の浜松禎高さん(65)は、郷土を学ぶ研修会で集まった市内の小中学校教員10人に語りかけた。北方領土の歴史や島での暮らしを約30分説明し、教員たちは熱心にメモを取っていた。市立桜井小の山本直美教諭は「ウクライナ情勢もあり、領土を守る大切さを子どもたちに伝えたい」と話した。
富山県は北海道に次いで元島民が多く、今年3月時点で452人いる。北前船交易の歴史を背景に、貧しかった多くの県民が季節労働で島へ渡った。戦後、元島民らは熱心に返還運動に携わった。しかし、今年3月、ロシアのウクライナ侵略に伴う日本の制裁への報復措置として、ロシア側がビザなし交流などを停止。返還交渉の行方は一層、不透明になっている。
元島民団体「千島歯舞諸島居住者連盟」富山支部長の浜松さんは、昆布漁を営んでいた母の実家が歯舞群島の水晶島にあった。ビザなし交流で北方領土へ渡った経験がある浜松さんは「島とのつながりがなくなると、返還交渉も前に進まなくなる」と肩を落とす。
参院選では、有権者の関心が生活に直接関わる問題に集まりがちだ。浜松さんは「北方領土を奪われた歴史はウクライナで今、起きていることと同じ。日本にとっても大きな問題だということを知ってほしい」と強調する。
水晶島に8歳までいた元島民の吉田義久さん(84)(黒部市)も思いは切実だ。「(返還が実現されず)悔しいし、残念。一日も早く返してほしい」と話す。
島へは毎年春から秋に渡り、家族で昆布漁を営んだ。島で草の実を食べたり、花を摘んだりして過ごした思い出は今も鮮明だ。吉田さんは「北方領土は日本固有の領土。(政治家は)『返せ』と高らかに声を上げ続けてほしい。そうしないと領土を見捨てることになる」と訴える。元島民の平均年齢は86歳超。領土問題の解決は、待ったなしの課題だ。(読売新聞富山版2022/7/3)
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