漁業基地・根室は安堵 サケ・マス流し漁 日ロ交渉妥結

 日本200カイリ水域内のサケ・マス流し漁を巡る日ロ交渉がようやく妥結し、漁業基地・根室に明るい表情が戻った。5月初旬の盛漁期に間に合いそうで、流し網でトキシラズ(シロザケ)をとる「伝統」の中断も免れた。近年は漁模様が悪く、解禁日から20日以上遅れる影響も懸念されるが、漁業者は「魚がいてくれれば」と祈るような思いで準備を急いでいる。(北海道新聞2022/4/23)

 出漁予定の小型船(14トン未満)は昨年より12隻少ない19隻。12隻が予定する根室市の石垣雅敏市長は「唯一のサケ・マス流し網漁となる日本200カイリ水域での操業が円滑に行われるよう、関係団体と連携して対応する」とコメントした。

 流し網漁は戦前からの歴史がある。交渉の基となる1985年発効の日ソ漁業協力協定は、サケが生まれた川のある国に一義的な利益と責任があるとする母川国主義を明記。当時は母船式、中型船、小型船(以東船、以西船)が対象で、漁獲枠はシロザケ約1万トンを含む約4万トンだった。

 その後、ロシア水域などから締め出されて減船が相次ぎ、2015年を最後に同水域から完全撤退。北洋サケ・マス漁の歴史は事実上終わった。その中で唯一、伝統をつないだのが、かつての以西船である日本200カイリ流し網の小型船だ。

 サケ・マス漁が花形だったころ、秋のサンマ漁は裏作と呼ばれた。そのサンマが不漁に陥り、ここ数年はサケ・マスも振るわない。

 ある船主は交渉妥結に安堵(あんど)するものの「(ロシア側に支払う)協力金の下限が6千万円減ったが、出漁隻数も減るから1隻当たりの負担はまだまだ重い」と話す。別の船主は「近年は赤字に近いけど、乗組員の雇用などを考えればやらないよりはいい」と、イワシやマダラなど他の漁と組み合わせながらサケ・マス漁を続ける意義を強調する。

 次の正念場は例年6月に始まる北方領土貝殻島コンブ漁だ。島を実効支配するロシア側に入るため、関係者は「今回以上にロシアの交渉に向けた態度は厳しいのでは」とみる。一方、根室の漁師は「サケ・マスがなかなか決まらず、貝殻島も諦めムードだったが、希望が出てきた」と話す。

 根室商工会議所の山本連治郎会頭は「貝殻島コンブ漁は200隻以上の船が関わり、無ければ大変なことになる」と、海洋資源も地域経済も隣国との関係に左右される宿命を説明。「ウクライナに対する行為は是認できないが、地域経済がますます困難な状況にならぬよう、戦争とは分けて考えてほしい」と複雑な胸の内を語った。(武藤里美、川口大地、森川純)

 

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