老朽化が著しいユジノサハリンスクのサハリン郷土博物館の修復・保存問題で、サハリン州議会が建物を視察した。この中で、ユーリ・アリン館長は設計、見積もり文書の作成だけで2,300万ルーブルかかると明らかにした。
建物は日本統治次代の1937年に建設された。アリン館長は「外から見ると建物は荘厳で美しいが、老朽化が激しい。建物自体はユニークなデザインで、ロシアではほかに見られない貴重な文化財であり、維持・保存することが重要だ。博物館の写真はカタログや冊子、ポスターカードなどサハリンに関するあらゆる出版物に登場する。地域のアイデンティティーの一部といえるが、他の文化財の場合と同様に州には修復のための予算がない」と語った。
これまで包括的な修繕は行われず、対処療法でしのいできた。館長は15年前、屋根の雨漏りの修理をよく覚えている。屋根材はロシアにはなく、日本に注文した。博物館の建設に関わった業者を探した。多分まだ存在しているのではないかという。雨漏りは今も続いている。完全に修繕するためには屋根を解体する必要があるが、構造は複雑で、別々のセグメントからなり、内部ですべてが相互に接続されている。雨漏りがどこから来ているのか、わかっていない。5年前には、東棟にも雨漏りが広がった。文化遺産の保護に関する国家検査官との合意に基づき、応急処理を施したが、十分ではなく深刻な被害をもたらした。一時的な手当てでは役に立たないのは明らかだ。
どの程度、本格的な再建が必要かは、建物を検査し、設計と見積もりの文書を作成する専門家によって決定される。サハリンには、認可を得てこの作業を行える業者は2社に限られている。アリン館長は、文化遺産の修復には厳しい規制がある。博物館の敷地内にある噴水でさえ、簡単に修理できない文化遺産になっている。
「博物館の建物の90%は建設された当時のままである。すべて創建時の姿に戻す必要はない」と館長は言う。もともとは5月から9月末まで、季節限定で開館する施設として建てられており、セントラルヒーティングや給水設備はなかった。暖房を入れたのは戦後になってからだ。この建物が州の文化遺産として認められる前のソビエト時代には、コンクリートにペンキを塗ったり、壁をモルタルで覆ったり、いくつか手を加えた場所がある。「それをもとの姿に戻す必要があるが、内部の暖房と給水設備は残る」という。
基礎回りの壁材をどうするかはまだはっきりしていない。以前は美しい天然石がめぐらされていた。「ロシアにはそのにようなものはない。それらはかつて満州や別の場所から運んだもので、その後、石が交換された」とアリン館長は言う。「多くの材料は海外から輸入したもので、関連の資料を探す必要がある。基礎回りをもとの形に戻す場合、これが問題だ。アーカイブに当たることはもちろん、あらゆる分野で作業が必要になる。建物の外観に関する情報など専門家を巻き込む必要がある」と語った。
文化財の保護に関する国家検査官のアンドレイ・グリネフ氏は「設計と見積もり文書の作成には2、3年かかる。実際の修復のために、さらに最大5年必要だ」と語る。博物館については、すでに修復作業を行う必要があるという決定がなされているが、検査官は州予算に余分なお金がないことを考慮し、博物館の設計と再建を延期することを許可している。現時点での条件は、2024年までに修復プロジェクトを開発(設計)し、再建は2028年までに行わなければならない。検査官は「新しい期限に間に合わない場合は、建物を管理する法人とそのトップは検査官によって管理責任を問われ、裁判所に文書が送られる。または法律違反に関する資料がユジノサハリンスクの検察当局に提出され、訴訟となるだろう」と説明した。
視察した議員は、博物館修復のために連邦の予算を獲得することは出来ないのか、尋ねた。連邦の助成制度はあるが、申請者がNPOの場合に活用が可能だという。ボロトニコフ議員は、文化遺産の視察結果に基づいて州議会で会議を開き、保存に関する問題を州政府に提言すると約束した。
いずれにしろ、まずは修復が必要な遺産を選択する必要がある。いくつかの文化遺産が失われるかもしれないという脅威は、すでに現実のものとなっている。(サハリン・インフォ2022/1/13)
ユーリ・アリン館長
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