政府は新年度、新型コロナウイルスの影響で中断している北方領土ビザなし渡航の3年ぶりの再開を目指す。感染が収束しない中、日本側は高齢化が進む元島民らの「墓参」の実現を最優先する考え。一方、ロシア側は日本人とロシア人島民が相互に往来する「ビザなし交流」を含めた全面再開を前提とする構えで、実現のハードルが高い。今年はビザなし交流開始から30年の節目。2019年9月以来途絶えている日ロ首脳の対面会談の実現も焦点となりそうだ。(北海道新聞2022/1/3)
ビザなし渡航には、ビザなし交流、墓参のほか、元島民らが昔の居住地を訪れる「自由訪問」があるが、コロナ禍で20、21年度は全面中止となった。
平均年齢が86歳に達した元島民からは「せめて墓参りをしたい」と切実な声が強く、岸田文雄首相は昨年10月、就任後初のロシアのプーチン大統領との電話会談で、航空機を使った墓参の実現に力点を置いて要請。人道的措置であり、船より移動時間が短く、現地での島民との交流が少ない墓参ならロシア側の理解が得やすいとの読みがある。
だが、ロシア側にはコロナ禍が収束しない中、島外から人を受け入れることへの懸念に加え、相互往来ではなく、日本人の渡航を先に認めることに慎重論がある。日本政府が北方領土のロシア人島民に日本の査証(ビザ)発給を認めず、自由に日本本土への渡航ができないことへの不満が背景にあるとみられる。
相互往来の場合、日本入国時の規制の根拠となる検疫法は北方四島を外国扱いにしているため、四島から日本本土に入域する際も適用され、現状では14日間の隔離措置が必要になる。一方のロシアは隔離規制をほぼ撤廃し、日本人は四島に隔離なしで入域可能で、対応に差がある。ロシア政府筋は「ビザなし渡航の再開は、日ロ両国民の往来が制限なしに正常化したときだ」と言い切る。
再開に当たっては、ロシア側が入国時に求める自国法に基づく検査などの検疫措置について、四島入域の際に日本の法的立場を害さない形で実施するための調整も不可欠だ。主権問題が絡むため、協議が難航する可能性がある。
ビザなし渡航は通常、3月ごろの日ロ代表者間協議で年間の事業計画を決め、5~10月に行われる。再開への課題が多い中、外相や首脳など高いレベルの対面会談の必要性を指摘する声があるが、コロナ禍もあり見通しは立っていない。両首脳の出席が見込まれる国際会議は今年前半目立った予定がなく、初会談は夏以降になる可能性がある。(ユジノサハリンスク 仁科裕章、モスクワ 則定隆史、東京報道 文基祐)
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