納沙布岬で慰霊祭
「北方領土墓参などが全面中止となった2年間は、4年にも5年にも感じられます。つらい気持ちのやり場もない」–北方領土の元島民らでつくる千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟、札幌)の根室支部が17日に根室市の納沙布岬で開いた物故者慰霊祭。宮谷内亮一支部長(78)=国後島=は祭壇に向かって、かみしめるように追悼の辞を述べた。(北海道新聞釧路根室版2021/10/27)
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、北方領土へのビザなし渡航は2年連続で中止となった。慰霊祭は島で眠る先祖に手を合わせる場をつくろうと初めて開催し、市内の元島民ら72人が参加した。6日には同連盟羅臼支部が、9日には別海町支部がそれぞれ独自に洋上慰霊を実施。参加者は故郷への思いをはせながら「1日も早いビザなし渡航再開を」と口をそろえた。
ビザなし渡航は北方領土墓参、四島交流、自由訪問の三つの枠組みで行われ、近年は毎年延べ700~千人が参加してきた。衆院選公示を目前に控えた慰霊祭翌日、納沙布岬などを訪れた西銘恒三郎沖縄北方担当相にも元島民からビザなし再開を求める声が相次いだ。「お墓にお参りできないのは悲しい」「来年こそはどんな状況でも上陸したい」
元島民らが焦燥感を募らせるのは、コロナが収束しても従来通りにビザなし渡航が行われないのではないかという不安があるからだ。ロシア側は昨年7月に憲法を改正し「領土の割譲禁止」を盛り込んだ。最近もロシア首相が択捉島を訪問するなど実効支配を誇示する動きが強まっている。
返還への道筋遠く
そもそもビザなし渡航の先に見据える領土返還交渉の道筋は一向に見えない。安倍晋三元首相は2018年11月のシンガポールでの首脳会談で日ソ共同宣言を平和条約の基礎に位置付け、事実上の2島返還路線に転換したが、進展はなかった。菅義偉前首相はプーチン大統領と一度も顔を合わせることなく退陣した。
この間にも元島民は次々と他界し、高齢化が進む。千島連盟によると、終戦時に四島に住んでいた1万7291人のうち1万2千人近くが既に亡くなり、9月末現在の元島民の平均年齢は86.3歳だ。
「時間は待ってくれない。俺たちの言う『時間がない』という言葉を、政治家はどれだけ重く受け止めているのか。この76年間は何のための運動だったのか。元島民は何も得るものがなかったのか」。歯舞群島水晶島出身の本村代さん(77)=根室市=はいらだちを隠さない。
歯舞群島多楽島出身の河田弘登志千島連盟副理事長(87)=根室市=は「このままでは2世、3世にも運動を引き継げない。なんとか目に見える形で交渉を進めてほしい」と述べ、2島返還に転換した安倍氏、それを引き継いだ菅氏の路線から離れ、戦略を練り直してほしいと願う。
政治に翻弄され、期待と失望を繰り返してきた元島民たち。コロナによる「空白の2年間」をへて、日本政府がどのように対ロ交渉に臨むのか。衆院選での論戦に厳しい視線を注いでいる。(武藤里美)
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