中標津町内の名所・養老牛温泉を発見、開発した西村武重氏(1892~1983)が、自身の狩猟や冒険について記した「ヒグマとの戦い」が文庫化して復刊され、山と渓谷社(東京)から全国発売されている。開拓者とヒグマの衝突や、著者とアイヌ民族との交流など、大正、昭和の地域の様子を平易に記している。(北海道新聞根室版2021/9/6)
「ヒグマとの戦い」は71年初版。同社が雑誌「山と渓谷」の常連投稿者だった武重氏に声をかけ発刊した。その後、絶版となったが今年7月に文庫本で復刊。山と渓谷社は「100年前、今は想像もつかないような大自然が広がり、活気みなぎる人がいたことを伝える、知る人ぞ知る名著。広く読み継いでほしい」と話す。
風蓮川流域や養老牛など根釧地域をはじめ、硫黄鉱探索で訪れた択捉島、武重氏が根釧を探索する前に訪れた道北地域や千歳川を舞台に、開拓に携わる人々や地域の動植物、狩猟を通じて巡り合った出来事が記されている。西別川流域のアイヌ民族の集落の長、榛(はしばみ)幸太郎氏との交流や、犬や馬を使うアイヌ民族のクマ狩猟も紹介している。
また、クマが開拓で山林に入る人々を襲った事件、牧場で牛馬を食う場面も詳述しており、同社は「クマの怖さの一端がわかり、事故が相次ぐ昨今、読み直す価値がある」としている。
武重氏は1892年に香川県で生まれ、96年に札幌に移住。その後は道内各地で狩猟、探検し、1916年に養老牛温泉に到達、20年に同温泉で最初の旅館「養老園」を開業した。孫の西村穣・中標津町長は「読み返すと民間の記録として歴史的価値を感じる。祖父の冒険の楽しさが多くの人に伝わればうれしい」と話している。990円で、全国の書店などで販売中。(小野田伝治郎)
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