北方四島を元島民らが訪問する交流事業が新型コロナウイルスの影響ですべて中止になったことを受けて、道東の羅臼町では6日、元島民らが船から慰霊する「洋上慰霊」が行われました。(NHK北海道2021/10/6)
「北方墓参」や「ビザなし交流」などの北方四島との交流事業は、新型コロナウイルスの影響で2年連続ですべて中止となりました。
これを受けて、元島民らでつくる千島歯舞諸島居住者連盟羅臼支部と羅臼町は元島民らの思いに応えようと、「洋上慰霊」を企画しました。
6日は羅臼町や周辺の町に住む元島民やその子や孫など38人が参加し、午前9時前、チャーターした観光船に乗り込んで羅臼港を出発しました。
そして40分後の9時半ごろ、羅臼と国後島との間のいわゆる中間ラインの手前の洋上で停泊し、慰霊が行われました。
船上には祭壇が設けられ、元島民らは1分間の黙とうをしたあと、一人一人焼香し、故郷の島の方角に向かって手を合わせていました。船は午前11時ごろ羅臼港に戻りました。
主催した羅臼支部の鈴木日出男支部長は「2年間元島民はつらい思いをしてきたが、きょう、こうして洋上で慰霊ができてよかったです」と話していました。洋上慰霊は今月9日に道東の別海町でも行われます。
【参加者の話】
千島歯舞諸島居住者連盟羅臼支部長で、国後島の元島民2世の鈴木日出男さん(69)は、「きょうは天候にも恵まれ、慰霊ができて非常によかった。島を追われてから一度もふるさとの地を踏むことなく他界した両親の思いを胸に、『ようやくここで手を合わせることができた。遅くなってごめんね』という気持ちで手を合わせてきました」と話していました。
鈴木さんはビザなし交流などでこれまでに島を5回訪れていて、「今のロシア人島民と元島民、当事者どうしが交流することによって返還への道が開けると思う。交流事業を絶やすことのないよう努力していきたい」と述べ、来年の再開に期待を寄せていました。
ビザなし訪問や北方墓参など北方四島との交流事業にこれまで16回参加してきた歯舞群島・多楽島出身の福澤英雄さん(81)は、洋上慰霊に参加したあと、「島に行きたくてもなかなか行くことが出来ないが、返還要求運動を頑張るので今後も見守っててほしいと先祖に語りかけました」と話していました。
その上で、「交流事業にもっと一般の人も参加できるようになれば北方領土への理解が深まるのではないか」と話していました。
同じく歯舞群島・多楽島出身の高岡唯一さん(86)は、「国後島の泊山の向こうが歯舞群島なので、そちらを向いて手を合わせました。ほっとしました」と安堵の表情を浮かべていました。一方、「交流事業を続けないとロシアは『自国の領土』という認識を強めるので、中止になったこの2年間はマイナスが大きかったと思う」と話していました。
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