北方領土の元島民らによる「ビザなし交流」は、今年で開始30年目になる。だが、新型コロナウイルスの感染拡大で、四島交流事業は2年連続で全面中止に追い込まれた。望郷の思いと交流再開の期待を込め、自宅の離れを「ロシア友好館」と名付けて30年間の交流の証しを展示し始めた元島民がいる。5畳間のプレハブ小屋。扉を開けると、バラライカなどの民族楽器、マトリョーシカ、民族衣装、ウオッカなど100点以上の土産物や、現地で撮った写真が目に飛び込んでくる。「ビザなし交流が再開したら、ここに四島のロシア人を呼んで、見てもらいたい」と北海道標津町の福沢英雄さん(81)は語る。(毎日新聞北海道版2021/10/4)
福沢さんは歯舞(はぼまい)群島・多楽(たらく)島の出身。5歳の時、ソ連の侵攻で命からがら脱出した。この離れには約1年前まで、引き揚げ時に福沢家が持ち帰ったちゃぶ台や羽釜、掛け時計、蓄音機など約100点が所狭しと飾られ、当時の島の生活を伝えていた。思い出がぎっしり詰まった空間を「レトロ館」と呼び、希望があれば一般の人も見学できるようにしていた。(本間浩昭)
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