北方領土を事実上管轄するロシア・サハリン州政府が、北方四島のエネルギーを石炭などから液化天然ガス(LNG)に転換する構想を進めている。サハリン島から船でLNGを運び、2023年に択捉島と国後島、25年に色丹島で供給を始める計画。財源の多くが民間投資頼みで具体化を疑問視する声は根強いが、実現すればロシアによる実効支配の強化につながりそうだ。(北海道新聞2021/8/22)
州政府は25年に温室効果ガス排出量を大幅削減する目標を掲げ、太陽光や風力などの再生可能エネルギーや天然ガスの導入を計画。サハリン島はガスパイプラインを敷設し、遠隔地のクリール諸島(北方領土と千島列島)はLNGを使う。
計画によると、ロシア政府系ガス企業ガスプロムがサハリン島にLNGを生産する小型プラントを建設し、船でクリール諸島に輸送。択捉島の内岡(キトブイ)と国後島の古釜布(ユジノクリーリスク)にLNGの貯蔵タンクなどの受け入れ基地を整備する。プラントは10月から設計に入り、22年着工予定という。
北方四島のエネルギーは石炭やディーゼルを使う発電に依存しており、リマレンコ知事は「大気汚染がなくなり、住民の健康状態が改善される」と強調する。
LNGの原料は、日本企業が参画するサハリン沖の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」が産出したガスだ。開発企業とロシア政府が分け合う生産物分与協定に基づき、ロシア側の取り分を利用する。結果的にサハリン2のガスが北方領土のLNG化に使用されるが、日本政府筋は「日本企業が関わるわけではないので仕方がない」と話す。
ただ、州政府は四島を含む州全域のガス化の総事業費を100億ルーブル(約150億円)以上と見込み、民間に67億ルーブルの投資を募るが、さらに膨らむ可能性がある。7月に択捉島を訪れたミシュスチン首相は「連邦政府と州政府の両予算が投入されるべきだ」と支援を約束したが、現状では四島開発の財源は約9割を州政府と民間で賄っており、どこまで政府の後押しが受けられるかは不透明だ。
択捉島を管轄するクリール地区のロコトフ地区長は「島へのガス到着は歴史的な出来事」と期待するが、州議会は建設費が消費者に転嫁されることを懸念。四島には地熱や太陽光の発電所建設計画もあり、島民からは「計画が多すぎる。わずか2年でLNGが届くとは信じられない」と、冷ややかな声が出ている。【ユジノサハリンスク仁科裕章】
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